背教者の言葉に祈りを
彼女は、と落とされた言葉にコレットは胸の前で組んでいた指をぎゅっと強く握り締めた。祈るように、耳を澄ますように、そっと瞑目する。塗り潰された視界に男の声が響いた。
生まれた時から、女神を信仰し、その身を捧げよと教えられてきた。
「……マーテルさま」
今や女神マーテルは神などではないと理解している。しかし、だからといってその信仰心は薄れるようなものでもなかった。仮に、自らがただ一人の女性を生き返らせるための器として選ばれ、殺されようとしていたとしても。
例え本物の女神ではなくとも、やはりマーテルさまは素晴らしい方だったのだと。コレットの確信にも近い、感激の思いは一人の男の言葉によって裏打ちされた。
女神を「彼女」と呼び、一人の女性として見詰める男によって。
「誰もが差別のされることのない世界が見たいと」
そう言っていた。
男は、女神に祭り上げられた恋人のかつての姿を思い返すように眼を伏せていた。自らをレネゲード──背教者と名乗る男による女神の代弁に、少女はただその願いが届くよう、祈ろう、と思った。
[幕切]