■tos | ナノ
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 毎年、同じ日に店を訪れる男がいる。
 毎年、同じ時間に店を訪れ、同じものを頼み、同じ時間に帰っていく。店に入ろうともコートを脱がず、手袋すら外さない男は、何を話すでもなく客の居ない時間に現れてラムを一杯飲んで出て行く。普段愛想よい養父ですら、男が現れると黙り込んで黙々とグラスを磨く。重い沈黙とただならぬ雰囲気に、少年はうっすらと男が堅気ではないことに気付いていた。
「あいつ、今年も来てたんだな」
 自分と入れ代わるように雨の中へでていった男の背を追うように、少年は閉まった扉に視線を投げ掛けた。おいよ、と手渡されたタオルですっかり濡れてしまった髪を乱暴に拭く。何度も洗濯されてすっかり色落ちした青いタオルは、髪の含んでいた水分を吸って重たくなっていった。
「係わり合いにゃあ、ならん方がいい」
 僅かにラムの残ったグラスを片付けながら、養父が目を逸らす。
「良くねえ感じがする」
 紙のコースターをさっさと処分する父に、少年は訝しげな顔をした。
「珍しいよな、親父がそんなこというなんてさ」
 まあ、確かに変な客だけど。
 水分を吸わなくなってしまったタオルを手で弄びながら、少年は養父が片付けをする姿を眺めていた。
 少年が物心ついた頃には、既に男はこの店に通っていたようであった。決まった日にやって来るのはその頃から全く変わっておらず、ただ、以前は深夜近くに来ていたらしかった。
 それがいつ頃からか、店を開ける直前にやって来るようになり、少年が学校に通うようになってからは、丁度帰宅する時間に帰っていくようになっていた。
「そんなに嫌な奴なんだったら断りゃいいのに」
 どうせ店開ける前に来てんだし。
 何だったら俺が今度言ってやるぜ、と続けた少年に、父親は、馬鹿言うんじゃねえ、と一言漏らすと、
「悪い人じゃあ、ねえんだ。」
 良くねえ感じはするがな、と呟いた。
「ともかく、お前は係わり合いになるな。いいな」
 珍しく難しい顔をして釘を刺す父に、少年は少しばかり拗ねたように解ったと返事をすると、一先ず雨に濡れた服を着替えに、店の奥へと駆け込んでいった。


[幕切]


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