最低の選択
「好きだ」
好き、なんだ。
吐き出すような我が子の告白に、クラトスは眩暈を感じた。咄嗟になんと言って断ればいいのか解らなかった。突き放すにも間が長すぎる。しかし、それでも、血の繋がりを告げることは出来なかった。
この後の事を、旅の結末を考えれば尚の事。
お前は私の子なのだと、告げる事は敵わなかった。
「風が──」
「え?」
「風が、出て来たな」
だから今は、聞かなかったことにするしかないのだと。そう考えた。元来喋ることは得意ではない。
戻るぞ。
言って、ロイドの隣を、顔を上げずに通りすぎる。さく、と聞こえる足音はいっこうに増える気配はなく。しかし、振り返り声を掛ける権利を彼は持たなかった。自らその権利を持たぬ選択をした。何も知らない、という。
最も、忌避すべき選択。
[幕切]