■tos | ナノ
最低の選択


「好きだ」
 好き、なんだ。
 吐き出すような我が子の告白に、クラトスは眩暈を感じた。咄嗟になんと言って断ればいいのか解らなかった。突き放すにも間が長すぎる。しかし、それでも、血の繋がりを告げることは出来なかった。
 この後の事を、旅の結末を考えれば尚の事。
 お前は私の子なのだと、告げる事は敵わなかった。
「風が──」
「え?」
「風が、出て来たな」
 だから今は、聞かなかったことにするしかないのだと。そう考えた。元来喋ることは得意ではない。
 戻るぞ。
 言って、ロイドの隣を、顔を上げずに通りすぎる。さく、と聞こえる足音はいっこうに増える気配はなく。しかし、振り返り声を掛ける権利を彼は持たなかった。自らその権利を持たぬ選択をした。何も知らない、という。
 最も、忌避すべき選択。


[幕切]



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