漂うように息をしている
ただ、怠惰に呼吸していた。
何も意識せずに時間に流されるかのように息だけをしていた。
自分を取り巻く全てのものから目を閉じ、つい先程まで己の上で荒い息を吐いていた男が、汗で髪のへばり付いた首筋へ手を掛けるのを黙って受け止める。瞼の裏で男の、常は身の丈ほどもある武器を握り戦う──エルフ種の血が混じっているにしては骨ばっていてごつい──指が、思いがけないほどに繊細な指使いで動くのを、彼は想像した。そうして、今正にその細かな動きで、首へ張り付いた赤鳶色のやや癖のある髪を男の少し荒れた指先が摘み、除けていくのを彼は感じていた。
つんつんと引っ張られる髪の根元や細い髪で擦られる咽喉の表面が、ひりつくように痛み。
だが、それ以上のこそばゆさと気恥ずかしさを感じて、彼──クラトスは深く、息を吐いた。
[続]
2013・05─拍手掲載