■tos | ナノ
いつか、思い出に変わるまで


「お前のことは、本当に愛していた」
 過去形で話す男へ、ユアンは内心苦い笑みを浮かべる。
 アスカードにあるユアンの隠れ家へ、二人の姿はあった。
「今はもう心は無いと?」
 問えば、男──クラトスは否と頭を振った。少し癖のある赤茶の髪が少し遅れて揺れる。
「そうではない。だが、もう会うこともできなくなるだろう」
「ならば行くな」
 はっきりと言い切ってやれば、クラトスは表情の解りにくい顔に困ったような色をのせた。
「ユアン」
 解っているだろうと、言外に含ませ名を呼ぶ男へ、ユアンは強く視線をやる。
「私の意見は変わらん。お前が行く必要などない。どうしてもクルシスの残党を地上へ残したくないというのであれば、私が片を付ける」
 血生臭い手段を提示すれば、クラトスはやはり首を横に振りもう一度、ユアン、と名を呼ぶ。ユアンは敢えて返事はせずに、口を引き結んでクラトスを見遣った。
「すまない」
「謝るぐらいならば行くな」
 合間に言葉を挟めば、クラトスは思わずといったように破顔した。
「すべきことが終わったなら、必ず戻る」
「不確かだな」
 何も保障が無かった。戻る方法すら、デリス・カーラーンで見つけるか、オリジンの力を借りねばならないだろうと二人とも理解していた。
「……帰って来い」
 長い沈黙の後、折れたのはユアンだった。
 必ずだ、と言い。頷いたクラトスへ、ユアンはつと背中を向ける。
「ならばこんなところで油を売らずに息子のところへ行ってやれ」
 すまない、と。今度は感謝の言葉の代わりにか一言残して、クラトスが部屋を立ち去る。
 彼が思い出になってしまうまでは、この胸は痛み続けるのだろうと。ユアンは手近にあった椅子へ座り込み、想う相手ひとり繋ぎ止められない己へ向けて、深く深く、溜息を吐いた。


[了]


back
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -