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さよならの場所で


 風の強い日だった。
 買ったものの入った紙袋を片手に表通りを歩くユアンは、アスカードの渓谷へと吹き降込む強い風へ顔の横へ垂らした髪を遊ばせながら、良く回る風車を見上げていた。
 日差しは強く。手で庇を作りながら仰いだ空へ動くものを捉えて、ふと目を細める。
「……鳥か?」
 それにしては大きい、と眉根を寄せる。
 陽中を横切る影へユアンは目を凝らし──、ついで瞠目した。
 酷く見慣れた機影は、だが長らくマナの安定しなかった世界において、すっかりと廃れてしまい、今では搭乗するものはいないと言っても過言ではないだろう。
「レアバードだと?」
 誰がと言い掛けて、ユアンは言葉を失った。
 世界統合がなされ数百年は経とうとしていた。当時を知るものの殆どはいなくなり、生き残りといえばユアンも含めエルフの血を引くものたちだけである。
 生にしがみ付きたくてしがみ付いているわけではない。だが、心残りがあるのも確かだった。
 逆光の中、着陸場所を探すように機影が数度旋回し、やがて街道方面へと機を倒すように機首を返す。その少し癖のある曲がり方へ、ユアンは確信する。
「なるほど、レアバードの時空を渡る機能と空間転移装置を利用したか」
 ポータルには救いの塔の跡を使ったのだろう。レネゲードの基地は既に放棄済みであり稼動していない。残るは先に挙げた場所だが、あの場所には嘗て地上とウィルガイアを繋ぐ空間転移装置があった。塔崩壊後はメンテナンスらしいこともしていないが、他に転移装置のポータル足り得る場所に心当たりが無い。
 或いはデリス・カーラーンの空間転移装置へ手を加え、アセリアの特定場所を指定し強引にレアバードで時空を渡ったのか。
 どちらにせよ十分なマナのあるデリス・カーラーンと大樹が成長しマナの濃くなったアセリアだからことできることだろうと、結論付けると。
 直に訪れるであろう恋人を出迎えるべく、ユアンは立ち寄る予定の無かった酒屋の扉を押し開いたのだった。


[幕切]


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