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激痛の対価


 全くもって愚かしい男だと、ユアン・カーフェイは自嘲した。
 喪失に耐えられはしないと解っていながら、救う術を見出すこともできず。彼の命と目的を天秤にかけることを躊躇った結果。結局は何も為せぬまま大切なものは手からすり抜け、ユアンは彼が去るのを呆然と見ているしかなかった。
 いや、違うとユアンはひとつ頭を振ると、身体を椅子の背もたれへと預けた。
(ほっとしているのだ、私は)
 あの男を見るたびに、決断を迫られているように思えて仕方なかった。
 赤褐色の凪いだ瞳を正面から見つめる度に、気持ちは落ち着かず。思わず目を逸らしてしまった。
(胸は確かに痛むというのに)
 結論を先延ばししたに過ぎないというのに、そのことへ安堵する己にユアンは深く恥じ入った。
「お前はとうに覚悟を決めていたのだな」
 クラトス、と名を呼んだところで、返事など帰ってくるはずもなく。
 覚悟を決めるための時間を、他でもない彼によって与えられたのだと、ユアンは口を引き締め俯くと、空虚さに悲鳴を上げる胸へ、静かに耐えたのだった。


[了]


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