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あるはずのない温もり


 男はある筈のない温もりを探していた。
 飛び起きて、己の傍らを探り、周囲を見渡す。そこが何処なのかも解っていない様子で妻子の名を幾度となく呼ばう彼を、ユアンは真正面から抱きとめた。
「クラトス、クラトス」
 落ち着けなどと、言ったところで意味を成さないとユアンは知っていた。
 掛けるべき言葉も持たないユアンは、半狂乱で此方を押しのけようともがき見つかるはずも無い温もりを──妻子を探しに彷徨い出ようと突っ張る腕ごと、強く掻き抱く。
「クラトス」
 彼の名を呼び、悲しみの彼方から帰ってくるよう願いながら。ただ待つより他、ユアンに出来ることは無かった。


[了]


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