零れ落ちてゆく時間
暖かい日だった。
さわさわと、枝の広く張った広葉樹の葉が揺れる。音にあわせて木漏れ日が、丈の短い下生えの上を踊るように動き、クラトスはそっと目を細めた。
街道から少し外れたなだらかな丘の上に、ぽつりと樹は立っていた。
その樹を見つけたのはミトスであり、その下で昼食にしようと言ったのはマーテルであった。ユアンは街道から目立つだろうと渋ったが、クラトスは二人の意思を尊重したいと伝えた。
結論だけを言えばミトスとマーテルの些細な我侭は達成された。
その辺りが非常に長閑な農村だったこともある。街の近辺ほど騒がしくもなく、かといって軍や衛兵が全くいない無法地帯ということもない。
樹の下へ腰掛けた二人は、さっそく携帯食糧を取り出して、嬉しそうに食事を始めていた。
堅パンを一食分削りだし、冷製スープに浸しながらゆっくりと噛む。
二人の様子を眺めながら、クラトスは二人の街道側へ陣取り、ユアンはさり気無く街道を遠くまで見通せる丘に近い位置へと陣取る。
ミトスとマーテルが楽しそうに話をし、時折ユアンがミトスを──或いはミトスがユアンを──からかい、マーテルが笑って、クラトスがからかわれた方へ助け舟を出す。
夏の近い、暖かい昼だった。
この時間が長く続けばいいと、クラトスは思った。
[了]