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優しさなどではなく


「恐ろしい男だな、お前は」
 そう呟いた男は、何時もの無表情に近い、だが何処か困ったような顔をしていた。
 随分唐突な物言いに、ユアンは眉間に皺を寄せる。
 つい先程まで、他愛の無い話をしていた筈だった。互いの近況を報告し合い、付き合っているにしては色気も何も無い会話ではあったが、自分で自分を追い詰めるきらいがあるクラトスへいつものように釘を刺したところであった。
「何が言いたいのだ、クラトス」
 恐ろしい男だと評されたことは多い。だが、目の前の男──クラトスに言われたことは一度たりともなかった。
 では何故今になってと考えたユアンへ、クラトスがゆっくりと口を開き、
「お前の優しさは恐ろしい」
「私が優しいなどという物好きのはお前ぐらいだ、クラトス」
「そうやって気負わせないところが優しいのだ」
 いつか依存してしまいそうで恐ろしいと、少し笑う。
「……私はお前と共にいる」
 依存してしまえばいいのだと、咽喉の奥でひっそり呟き、だからお前も離れるなと、ユアンはクラトスを抱き寄せた。


[了]


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