もう何度目かの決断を
クラトスは覚悟を決めようとしていた。
もうミトスの考えに賛同出来ない以上、袂を別つべきであると幾度も考えていた。
ユアンの行動へ気がついてしまったというのもある。
時折、何かを睨むように空中を見据え、行き場の無い握り拳を己の膝へ押し付ける男の背中を、クラトスは見続けていた。考え込むように眉間に皺を寄せた男は、やがて歯を食い縛り力なく項垂れるのだ。真っ直ぐ此方を見詰めてきていた深い青緑の目は、いつの頃からか静かに逸らされるようになっていた。
何を悩んでいるのか気がついたのは最近だった。
レネゲードを名乗る者たちの活動の裏に、男の影を見出したのは、偏に戦場にて幾度と無く対峙したことのあるクラトスだからこそだろう。
そして、己が──オリジンの封印となっている己の命が──男の枷となっていることに気がついたのだ。
もう、男を解放してやろうと思った。
彼と、彼の愛した彼女の為に。
(私が封印を解く鍵であり、私の命によって彼の作戦がなるのであるとするならば)
己の死によって男の計画が達成される、それはクラトスの中で、ある種のロマンチシズムを刺激する。
(追って来い。そして──)
せめてお前の手で。叶わぬならば、お前に看取られて。
クラトスはうっそりと微笑んだ。
[了]