束の間の戯れ
し、という警戒とともに口が覆われた。
近くを慌しく二人組の駆け音が響く。口元を覆った手に緊張が走ったのを感じ取ったユアンは、ふと戯れに、白い手の平へと歯を立てた。
反射的にか、手の平へ僅かに力が入り、鋭い視線が飛んでくる。
クラトスの視線を涼しい顔で受け流し、相手の動揺に気を良くしたユアンは、今度は舐めてやろうかと口を開きかけ。
隙をつくように口元だけではなく鼻まで抑えに掛かったクラトスへ、ユアンは慌ててギブアップだと相手の肩を二度叩いた。
「おい、殺す気か」
「先に手を出したのはお前だ」
険しい表情のクラトスは、それでも足音の持ち主を警戒してか、声を潜めている。
「隠れ鬼にそこまで必死になる必要も無いだろう」
「……あの子たちは本気で探しているのだ」
答えてやらねばと真顔で答える男へ、ユアンは何処まで真面目なのかと半ば呆れると、静かに息を吐き出し、気配を殺したのだった。
[了]