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癒しの運び手と


 どれほど癒しの術に特化していようとも、治せないものはあった。
 致命傷とも言える傷を負い、いかに生命力を注ぎ込もうとも、罅の入った水甕のように生命力が洩れだしてしまう者。己の知らない毒に冒され日々蝕まれてゆく者。治癒術では治せない、複雑で強力な流行り病や、不治の病と呼ばれる病気にかかった者。身体だけでは無く、心に傷を負った者。
 彼らに種族は関係なく。飛ぶものも地を駆けるものも、精霊や、或いは大樹すら傷付いてると言えた。この世界で傷を抱えるものなど居ないのではないかとすら、思えるほどに。世界は傷付いていた。
(どうか、せめて)
 この手の届く範囲だけでも、守ることが出来たなら。
 そう考えて、マーテルは否と首を振った。
(いいえ、せめて。せめて、この傷付いた子の心を)
 癒してやることが出来たなら。
「どうしたの、姉様」
 小首を傾げる弟に、マーテルは、何でもないわ、と微笑んで。そうしてゆっくりと、包み込むようにミトスを抱きしめた。


[終]



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