■tos | ナノ
歪んだ世界


 視界も頭も定まらず、目の前に差し出されたコップはぐにゃりと歪んで見えた。
 飲みすぎたか、とクラトスは意識の浅い部分で考える。
 手に取ったコップの水面も揺れ、酷く咽喉は渇いているのに上手く口元まで運ぶことが出来ず。ぐらぐらと頭を揺らしていると、コップを持つ手に誰かの手が添えられ、クラトスは漸く水を口にした。
 食道を水が流れ落ち渇きが癒えると同時に、飲みきれなかった水が溢れて口の端をするすると冷たい感覚が流れる。それを誰かの手が遡るように辿った。
 クラトスは自分が瞼を降ろしていたのにも気がつかないまま、唇を拭う優しい手つきに身を委ねた。そのまま懐くように顎をほんの少し上げると、撫でる手は止まり、逡巡するように少しだけ間を置いて、人の気配が近付いてくる。
 クラトスにとって良く慣れ親しんだその気配は、息が触れ合うほどに近くまで寄ると、そっと唇へ手とは違う柔らかい感触でもって触れた。
 視界と同じようにぼやけた意識の中、繰り返し触れ合い、時折啄ばむようなそれに充足感と共に心地よさを感じる。
 重ねて鳴らされるリップ音へ僅かに唇を開き──ふいに襲った咽喉を焼く感触に抗えず、クラトスはそのまま少し前のめりになり熱い塊を吐き出した。
 何かにぶつかりながら椅子から転げ落ち、込み上げる吐き気に、腹をへこませて嘔吐する。
 二度ほど吐いて、息苦しさと酷い臭いに嘔吐きながらふと顔を上げると、
「……すまん」
 其処には吐瀉物へ塗れたユアンの姿があった。


[了]


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