■tos | ナノ
終わりと始まり


 何故なのかと、クラトスは自問していた。
 頬を濡らす返り血すら拭うことなく、億劫そうに周囲を見渡す。
 辺り一帯は炎に包まれ、草木や死体を舐める火と煙以外に周囲で動くものは見えなかった。
 殲滅したわけではない。四人を──大いなる実りを包囲していたうちの半数近くは逃げ出しただろうと、クラトスは考えていた。
 傷だけではなく皆の心へ寄り添っていた癒し手は落命し。四人を繋ぎ止めていた糸は切れてしまった。
 手にしていた剣は血でずぶ濡れており、炎を帯びた魔剣でなければとうに切れ味など無くしていただろう。剣を握る手の平にまで血は入り込み、柄はずるずると滑る。剣を持つ右手は、妙に重怠く感じられた。
 少年は、そして少年の姉は。決して私欲の為に大いなる実りを使おうと思ったわけではない。唯一の家族を──そして彼らの住む世界を救いたいと願うことが私欲だというのならば、確かに欲望のためと言えるだろう。だがそれを私欲とするのであれば、この世に無欲なものなど誰一人として居りはしない。
 何故彼女が。世界を癒そうとしたものが犠牲となり、欲望の為に彼女の命を奪うようなものが生き残らねばならないのか。
 少年の慟哭が響き、クラトスは。彼女の死と共に何かが終ってしまったのだと、そう感じていた。


[了]


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