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堕ちたる騎士と


 己の采配一つで容易に人の命が奪われていく、というのは心底恐ろしいことだと思った。
 誰かを守る為だと嘯きながら人を殺めることに、身震いするほどの狂気を感じた。
 誰かに──或いは世界や歴史や、戦争自体に──責任を押し付けながら命を奪う、という行為は空恐ろしいと。
(いいや、空想だけではない)
 実際に、そうなってしまっている己自身が恐ろしいのだ、と騎士は自覚した。
(今ですら、こうして他人事のように考えてしまっている)
 ろくな武器も持たず、抵抗の術を知らない小さな集落を。敵の補給路を断つという名目で、雷撃砲の一斉射撃により殲滅した。兵糧は自軍の陣営へ運び込んでも良かったが、それには多分に時間がかかる上、必要以上の物資は軍の動きを重くする可能性があった。速やかなる鎮圧の為には、村を強襲し、人も物資も放置したまま集落ごと焼却する方法が、最も手っ取り早い。
 敵軍の士気を効果的に下げるには、迅速なる襲撃と徹底的な破壊が必要であった。
「火は消すな、直ぐに陣営へ引き返す」
 敵軍が戻るより前に帰還する。消火活動すらせず、撤収の指示を出すと。よく訓練された軽騎兵隊は、襲撃時同様整然と騎竜を駆けさせ行軍の陣形へと纏まっていく。
 捕らえんとするかの如く纏わり付く煙りを振り払うように、騎士は竜を疾駆させた。


[終]



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