秘めた本音の欠片
「お前たちと同じ、狭間のものとして生まれていればと、思うことがある」
そう呟いた男へ、ユアンは怪訝な顔をした。
男は此方ではなく真っ直ぐ前を見ていたが、意識自体は今し方後にしたばかりの広場へ向いているのだろうと容易に想像できる。
つい先程、男がハーフエルフの子供に悪態を吐かれた場所へ。
「私は、お前たちの苦しみも理解したつもりになっているだけなのだと思い知らされる」
無表情に淡々と喋る男を横目で見たユアンは、視線を前へ戻すと、ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「馬鹿を言え。誰であれ、他人の苦しみを完全に理解できるものなどいない。誰一人な。お前に食って掛かったあのハーフエルフの餓鬼とてそうだ」
本当に小さな──人に押され転んだ子供を助け起こした程度の──一瞬の出来事だったが、それ故に男の中では印象が強かったのかもしれないと、ユアンは口を開く。
「苦しみとは心へ生じるものだ。血が原因になることはあっても、血に生じるものではない。誰かの苦しみを全て理解しようというのであれば、同じ心を持たねばならん。お前が自分を失くす必要はない」
男は、黙って耳を傾けているようだった。
「大事なのは人の苦しみを軽んじないことだ、クラトス」
お前がそうしてくれているように、と出かかった言葉は飲み込んで、ユアンは言葉を切った。
クラトスはじっと何かを考え込んでいたようだが、やがてひとつ頷くと、そうか、と言った。ユアンは敢えて其方を見はしないまま、そうだ、と。やはりひとつ頷いて返事をした。
[了]