目を閉じ耳を塞ごうと
目を逸らし続けたところで、感情というものは消えてなどいないのだと思い知らされる。
はっきりと動揺を示した己の感情に、クラトスは暗澹たる気分で部屋の中を眺めた。
「クラトス、はやくはやく!」
「場所は空けてあるわ、クラトス」
「何をしている、さっさと来い」
冬の日。隙間風の酷い安宿だった。
来い来いと招かれたクラトスは、ぎこちなくミトスとユアンの間に身を横たえた。できる限りミトスの側へ寄ると、後ろを詰めるようにユアンが身を寄せてくる。
クラトスは思わず身体を強張らせたが、ユアンはそれに気付きもしないまま背後へぴたりと張り付いた。
寒さを凌ぐ為に仲間達と身を寄せ合っているだけだというのに、自分は一体何をしているのかと。クラトスは自己嫌悪に陥りながら、只管はやく寝てしまえるよう眠気を手繰り寄せることに勤めたのだった。
[了]