静寂の埋め方さえ解らず
「おい、クラトス」
室内へ男の声が落とされ、クラトスはふと顔を上げた。
どうしたのかと窓から街並みを眺めていた男を見れば、男は相変わらず窓の外へ視線を投げたままである。
「何か喋れ」
視線で──或いは気配で──クラトスがユアンへ目を向けたことへ気付いたのか、ユアンは此方を見るでも無くそのまま促してきた。
困惑したクラトスは、思わず眉を潜める。
「何かとは」
「何でもいい、喋れ」
なんだ、と続ける間もなく断じられ、クラトスは口篭もった。
何でもいいといわれたところで、ユアンがどういった話題を好むのかなど、彼は知らない。そもそも弁が立つわけでもなく、静けさを厭うわけでもないクラトスにとっては、沈黙の方が心地よかった。
「……私は静かなほうが好きだ」
「なんだそれは」
思わず部屋の中へ振り返った男は呆れたような、不満そうな顔をしており。その様子へクラトスは愉快そうに、口の端へ薄く笑みを刷いた。
[了]