■tos | ナノ
似合わぬ態度は規則違反


 視界の端へ赤いものがちらつき、ユアンは手にしていた木のマグを止める。
 宿の一階にある食堂で、四人は朝食を取っていた。いつもは素泊まりで済ませるのだが、宿屋の主人の気前がいいのか、或いはミトスを見てはしきりに可愛いと連呼していた女将さんの好意によるものなのか。起きぬけの四人へ女将さんはテーブルへ着くように促し、朝食をサービスしてくれたのだ。
「クラトス」
「なんだ」
 何食わぬ顔をして隣りに座るクラトスは自分のマグを手に取ると、葡萄酒を口にした。
「なんだではない、お前それは流石にどうなのだ」
 呆れを含んだ顔でクラトスの前の皿を示せば、ユアンの向かいの席へ座っていたミトスがきょとんとしてユアンの視線を追う。
 朝食にと女将さんはキャベツとジャガイモのスープと、リーンブレッドへ七面鳥のハムとトマト、ルッコラの若い葉を挟んだハニーマスタードソースのサンドイッチ、それに葡萄酒の水割りを用意してくれた。
 クラトスの木製の皿の上には、そのサンドイッチに挟まれていた筈のスライストマトが残されている。
 沈黙するクラトスへ、ユアンはじわじわと眉を寄せた。
「そういえばクラトスはトマトが苦手ね」
 目を瞬かせて言うマーテルへ、クラトスがどこか気まずそうにする。
「どうもトマトだけは駄目でな」
「そうか、だが食えんわけではないのだろう」
 言外に残すなと言葉を滲ませれば、クラトスは困ったような表情をして、ユアンを見詰めてきた。
「そんな顔をしても駄目だ」
「ユアン」
 何か訴えかけるような声音に、ユアンは言葉を詰らせた。
 クラトスとて厚意に甘えているというのに残すのは本位ではないのだろう、真面目な男だ。恐らくは心苦しく思っているに違いない。そう考えて、ユアンはひとつ溜息をつくと。
「今回だけだぞ」
「あー、僕が残したらいっつも怒るくせに」
「お前はいつもごねるだろうが」
 そういって、クラトスの皿へ乗っているスライストマトを摘み口へ運んだのだった。


[了]


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