「………海?」

「どうしてそんなに嫌そうな顔をするの?ファイ」

「いや…まぁ、その…」

「?」


赤月の執務室の中で、ソフィアは赤い色のフカフカのソファーに腰掛けて、不思議そうに首を傾げた。同じく隣に座るハヤトが言葉を濁す意味が分からないのだろう

ソフィアが赤月の本部にやって来たのはつい数分前。ついでに非番だったハヤトを連れてやって来たのだ
現在真夏真っ盛り。テレビは常に海水浴だったりこの夏休みに旅行に行く、遊びに行く所のオススメを特集したりと夏ムード全開だ
そこで珍しく、ソフィアの方から「海に遊びに行きませんか?」と申し出たのだ。ソフィアは泳げない為、パラソルの下で静観を決め込む確率大だが

ところが、真っ先に「行こうぜ!」と飛び付いていきそうなファイが、何故か物凄く嫌そうな顔をしたのだ。あのファイがだ
これにはソフィアも首を傾げる


「俺は良いや。皆で行って来いよ」

「ファイが行かないなら皆行かないと思うわよ?」

「嫌、行かない」

「(こうなると頑固ね、この娘は…)どうして行きたくないの?」


理由を聞くと、ピシッと固まった。やはり行きたくない明確な理由があるらしい
しかし固まったままで、口を開こうとしないファイに痺れを切らし、ソフィアはハヤトに尋ねた


「どういう事なの?」

「…俺、師匠に殺されませんよね?」

「良いの。本人が話そうとしないんだから。ハヤトに聞くしかないもの」

「………師匠」

「………」


ファイは完全にだんまりだ。これはもう言うしかない。というか言わないとソフィアがどんな手を使ってでも聞き出そうとしてくるかもしれないので、どちらにせよ言う以外の道は残されていなかった

大きく息を吐き、ハヤトは「どうやら、」と続けた



「太った、らしい。師匠」

「………え?」

「だから太っ「二回も言うんじゃねぇハヤトォォオオオオオッッ!!!!!」いででででっ!!?話さない師匠が悪いんでしょうがぁっ!!!」


問答無用でハヤトに関節技を決めているファイを、マジマジと見るソフィア

正直に言おう。一体どこが太ったというのだ。寧ろファイはもっと肉を付けるべきだと改めて思う

「…ちなみに、どれくらい?」と、ソフィアがファイに聞くと、本当に小さな、蚊の鳴くような声で「………体重計乗るの怖いから乗ってない」と答えた。まぁ、分かるが、お前はOLか何かか
…183cmの高身長の女性が55kgオーバーしていないだけで充分痩せていると思うのは私だけでしょうか。本気でソフィアはそう考えた


「いって〜…しかも、こないだフィリーにせがまれて、ビニールプール出したそうなんだよ。そこでフィリーにママも一緒に入ろうって言われて、試しに前から持ってた水着着てみたら、キツかったそうだ」

「てめ馬鹿弟子、そんな具体的に話すことないだろっ!!!」

「…ちなみに何処が?具体的に答えて」

「何処って………胸」


…それは単純に胸 が 大 き く な っ た だ け で は ?


「ファイ、単刀直入に良いましょう。それは太ったのではなく、貴女の胸が成長しただけです。最後に水着を着たのはいつですか?」

「え?去年」

「でしたら確実にそうです。太った訳ではないですよ」

「そ、そうなのか?」

「えぇ。………ハヤト?」

「あーそーですか。師匠は胸がでかくなったってだけで太ったと勘違いして挙げ句の果てにはその事をソフィアに話した俺に関節技を決めてきたと」

「………ハヤト、何か怒ってね?」

「俺はそんな胸がでかくなった事ねぇから悩んだ事なんて微塵もねぇよ師匠のウスラ馬鹿ぁぁぁあああああっっっ!!!!!!!!!!」

「しまった!!こいつには地雷だったっ!!!悪いハヤト!!悪かったからそんな今にも雷ぶっ放そうとすんな危ないッッ!!!!!」


ガッシャーーーンッ!!!仕方ないとはいえ、ぶちキレたハヤトに追い掛けられる羽目になったファイ
大丈夫、貧乳はステータスだからと、あの変態銀色トサカは胸を張って言うだろうが、間違いなくその銀色トサカはぶっ飛ばされるだろう。火に油を注ぐのも当然だ

「…そうですね」暴れ回るファイとハヤトを放置し、ソフィアは顎に手を添え考える。そして、



「それなら、今から新しい水着を買いに行きますか?勿論ハヤトの分も」

「「………へ?」」



その一言で、取り敢えず喧嘩は止まった



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