「カントクゥウウウッ!!!早まるな!!俺達が作るからカントクはやんなくて良いからぁっ!!!」

「リコちゃんちょい待ち………ッッ!!!!!?」


「おっそい!もう皆の分作っちゃったわよ?カレー!」


お そ か っ た … ッッッ!!!!! 

厨房に行くと、カレーを煮込んでいるであろう巨大な寸胴が、リコちゃんの目の前の巨大コンロの上に置かれていた。コトコトという音と一緒にカレーの美味しそうな匂いはしてくるものの………匂いだけだ。騙されちゃいけない。彼女は野菜を丸ごと入れてカレーを作るような人なんだから…!!

隣で「おっ!カレー?美味しそーな匂いしてんじゃん!」と晴曲君。「まさか合宿で女子の手料理が食べられるとはな。光栄だ」とフェミニスト発揮なうな舞尋君。「やったー!カレー好きですよー!」とのんびり全開な冬来さん
…気付いてない、この三人は気付いてない…!!

あの寸胴からカレーには決して使わないような物体が飛び出ていることに気付いていない!!

比較的料理はする方である、堅と秋君は、今この状況がどれ程危険な状態なのかを悟ったらしく………顔色がとてつもなく悪かった


「………斗真、俺の見間違いじゃなければ………ニワトリの足らしきものが見えてる気がするんだけど…」

「(リコちゃん肉の代わりにローストチキン用にあったニワトリそのまんま入れたな!?てかあれだけ特訓しといてまた丸ごと!?)」

「………あれ、魚の尻尾………ッスよね…?」

「(シーフードカレーでもないのに魚入れんなよッ!!!んでもってやっぱ丸ごとだった!!
)」

「しかもあれは………セロリに大根に菜っ葉にほうれん草に「もう皆まで言うな二坂…ッ!!!」…あ、うん」

「(片っ端から何でもかんでも入れたんかいあの子ォォォオオオオッッッ!!!!!)」


まだ丸ごとだけなら我慢出来ない事もなかったけど!!!
そんな明らかにカレーの材料じゃないもんまで入れんなよ!!セロリとか入れますか?大根とかカレーに入れますか!?
カレーの材料はニンジン、じゃがいも、玉ねぎが普通でしょうよ!!!


「じゃ、後はサラダだけだからちゃっちゃっと作っちゃいますかー!」

「リリリリリリリコちゃん!!!サラダだけは俺達が作る!作るよ!ていうか作らせて!!?」

「せ、先輩はゆっくりしてて下さい…!!!」

「そう?じゃーよろしくね!」


…あんなに必死な堅と秋君初めて見た

リコちゃんには出て行ってもらい、俺、堅、秋君、テツヤ、大我、凛ちゃん、だけが残り、他は大部屋へと帰って行った


「…ど、どうする?一応中身確認するか?」

「予想外だ…ここまで……ましてやまだ蓋を開けて中身を確認すらしていないのに、料理が壊滅的に下手だという事を思い知らされるなんて…!!」

「あの…もう材料無いんスか?」

「この大きさの寸胴からして…多分使い果たしてるだろうね。他の材料」

「………!……っ」

「凛ちゃんが、今から買い足しには行けないんですか?だって」

「行けない事もないけど…良く考えて?



リコちゃんが作ったカレーがいつの間にか違うカレーにすり替わってたら…リコちゃんどうなる?」


………怒り狂うだけでは済まされませんね


「それに、どんなに酷い料理だからって、女の子が作った料理を無碍に捨てるなんて事は…」

「だよなぁ…。と、取り敢えず、一回味見してみるか?」

「火神君、出番です」

「って俺かよ!!」


講義する火神を凛ちゃんが窘めている間に、恐る恐る…寸胴の蓋を取った



バンッ!!!…直ぐに閉めた


「ちょっと待てぇえええッ!!!今!!ルー!!カレーのルー!!全然!!無かったんだけどぉおおおッ!!!!?」

「おおお落ち着け城介!!あれだ!今は一瞬だったから見えなかっただけだ!!きっとそうだ!!具材だけで敷き詰められただけの寸胴だったみたいだけどそれなのにカレーの匂いがする訳ないじゃないか!!」

「とか言いつつ凄ぇ声が震えてっし何か足とか震えてんですけど!!?」

「むむむ、むしゃ、武者震いだよ…!!」

「何に対してですか」

「………;」

「と、とにかく!!い、一回………味見するぞ」


す、少しくらいルーは残ってるだろ。うん、少しくらい残ってるよ!せめて味見するくらいは残ってる筈だよ!!

意を決してもう一度蓋を開けてみた


………うん、ルーが…見えない。ぎっちぎちに入れられた哀れな具材しか見えないよ。軽くグロい


「よ、良し…!あ、あ、あ、味見…するぞ…!!」

「斗真さんがですか!?駄目です!斗真さんが味見したらお腹を壊すだけじゃすみません!ここは無駄に広い胃袋を持つ火神君ですよ!」

「無駄に広いって何だよ!!」

「だ、大丈夫なのか斗真…」

「こ、こんなん食えるんスか…?」

「………っ;」

「味見しねぇことには味の改変なんて出来ねぇだろ!………じ、じゃあ…いくぞ」


おたまを手に持ち、取り敢えずルーっぽい所を掬った
…何かニチャ…ッとかカレーらしからぬ音がしたとかそんなん聞いてない。聞いてないぞ…!!

パクッ 口に含み、最初の感想は、





「…………………………美味しい」

「「「え゛?」」」

「美味しい…よ?」

「「「嘘ォォォオオオオオッ!!!!?」」」


いや、だって、美味しいんだもん。普通に

俺の言葉が信じられないらしく、堅達も恐る恐るだが、カレーを口に運んだ。そして感想は、揃って「「「………美味しい(です)」」」だった。凛ちゃんは無言で頷いてたけど


「見た目はあれだけど、食べられるよ?」

「そうだね…見た目はあれだけど」

「流石に丸ごとそのまま出す訳にはいきませんから、一度丸ごとの野菜を出して刻んでおきますか?」

「そうだな。そうするか」


何とか食べられると分かり、俺達は丸ごと野菜を刻む作業と、備え付けのサラダと味噌汁を作ることに専念することにした



12≠20