いいよ.




「抱きたい、」

切なげに掠れた声でそう言われてしまえば、背筋が粟立つ。耳に熱が集まるのを感じながら、頷くことしかできなかった。

熱をはらんだ耳元に口付けが落とされる。
ビクリと震えた私に、堅治の口から溢れたのは微かな微笑み。漏れた息が耳にかかって、また体が反応してしまう。

「耳、弱い?」

「ちがっ、んぅ…!」

否定しようとすれば唇を塞がれた。
下唇をゆっくりとなぞられて、軽いキスを何度も降らせる。もっと強い刺激が欲しくなって、堅治の服を引き寄せるように引っ張ると、意図が通じたのか後頭部に手が回った。

「ふっ、〜…!」

口の中の酸素が持っていかれて、体の力が抜けた私に、堅治はよくできましたと言うように、一つ口付けを落とした。

「は、いかつりょうの差…考えて!」

「ワリィ、止まんなかった」

何度も何度も、長いキスを重ねる度に、いつしか頭がぼーっとなっていく。お酒を飲んだ時となんだか似ている感覚を感じているうちに、すっかりと身体は解されてしまう。




堅治は、意外と臆病な前戯をする。
慎重というか、まるでガラス細工を扱うみたいに。
触れる前には一々伺い立てをして、きっちりと整えられた爪先から優しく触れた。
なんだか、それが焦らされているようにさえ思えてきて、切ない。


「お願い、もっ、ういい、から…!」

首に腕を回すと、舌打ちが聞こえた。
こういう事をする時には、一般的には聞かない音だと思う。
腕を緩めて、堅治の顔を見ようとするけれど胸元に顔を埋められてしまって、見れなかった。

「…堅治?」

「なんか、やばい」

「語彙力どこに置いてきたの…?」

次には溜息をつかれた。
ムードはどこへ行ったのだろうと内心ぼやいてしまう。こちらも溜息を溢そうとするけれど、なっがいキスをされて、舌で掬い取られた。

「…ゴム、つけっから。」

優しく、大きな手で額を撫でられる。掌越しに落とされた口付けが、なんだかくすぐったかった。




「あっ…ぅ〜、ん!!…ぁぁあ…!」

ゆっくり、押し開くようにナカを進んだかと思えば、少し抜かれて…その繰り返しで思考はドロドロだ。
もう無理、もっと大きな刺激がほしくてその事しか考えられなくなる。

「むっりぃぃい…!!け、んじ、やっあぁ…!」

浅い呼吸を繰り返し、堅治の胸板が上下する。
さっきから、強請ってばかりで端ない女だと思われてないかなと、一抹の不安がドロドロの頭に浮かぶ。


生理的な涙か、その不安からくる涙かわからないけれど目から次々に溢れた時、堅治が動きを止めた。

「なっ、どうした、」

大きな手が私の目尻を拭う。
首を振ると、堅治は軽いキスをして「痛かった?」と尋ねた。私はまた首を振る。

「…なんか、心配事あるなら話してほしい。」

ぎゅっと抱きしめられれば、素肌同士の擦れる感覚。
堅治の匂い。

「報連相大事にしてぇな、次こそは。」

温かくて心地がいい圧迫感に、気持ちがほぐれる。

「…こういう経験、きっと堅治はあるでしょ?他の人とも。私もそうだもん。…もし、他の人と比べて…端ないとか、ヘタクソだとか、思われちゃったらどうしようって…」

「っばーーーーか!そんな最低に見えっか、俺!?」

フツーにショックだわ、と言いながら堅治が私の肩先に噛みつく。甘く立てられた犬歯がチクチクと肌を刺す。

「他のやつの事考える余裕も無くしてやろうか…」

顎を掴まれ、比較的短い…それでもやっぱりいっぱいいっぱいにされるキスを一つ。
噛まれた肩先が、上下するくらいには酸素を奪われた。

「確かに、お互い経験もそれなりにあるだろーけど。名前の最後の相手は俺がいい。…そんくらいの気持ちで今、こうしてる。」

それじゃ、だめか?
そんな事を言われてしまえば、駄目だなんて言えない。そんな選択肢も無いけど。

「…私も最後の相手は堅治がいい。」

「まぁ、俺いい男だからな。」

「なにいってんの、もう、」

笑い合って、それから。
どちらからなんてわからないけど、また唇を重ねた。








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