だめ?.




「好きです、付き合ってください。」

見渡す限り男だらけの工業高校でも、意外と自分はモテる。告白してきた相手は、同じクラスでそこそこ話す方の女子ーー名字で。顔は嫌いじゃないし、そこそこ好みだ。部活を優先しても怒るタイプでは無さそう。

「おう、よろしく。」

そんな始まりだった。
まぁ、両想いだから付き合うってヤツよりも、こうやってなんとなく始まる付き合いの方がありふれている。俺たちもその中の一つだった。
けれど、一つだけ。他と違うのかどうかもわからないが、悩みがあった。

「真っ盛りだぞ、こっちは…」

何が、なんて言わずもがな。性欲に決まっている。
親が不在の家に誘った。そこまでで察しのいいヤツならわかるはず。そろそろ次の段階にってやつだ。
しかし、帰ってきた答えはこうだった。
『お家の方が居ないのに、勝手に上がり込むのはダメでしょ。ご挨拶させてよ。』
ーー真面目かよ!えらいなほんとに!

「どう思います?鎌先さ〜ん…って、おい。」

事情を伝えれば、笑い転げるのは部活の先輩。
青根はこんな話できるような感じでは無いし、先輩にでも…と思った俺が馬鹿だった。

「ぶひゃひゃ、ヒーッ!!!二口ダッセェ!!」

「女性経験皆無の先輩に聞くのが間違いでした。帰ります。」

「ワリィって!ぶふっ…!…まぁ、その、名字さんはしっかりしてんだから、しゃーねーよ。直接伝えるしか無いだろ、それは。」

非常に癪だが。その言葉に納得して。
二人きりの昼休み、空き教室で言った。

「…そろそろ、次に進みたいんですけど。」

「次…って、あぁ…」

次、について説明しなくても済んだことにとりあえず安心する。名前は箸を持ったまま、俯く。耳が赤くて、意味が通じたのがわかった。
俺は手にしていた焼きそばパンを机に置いて、その耳に触れると。微かに名前の体が震えて、ムラッと下腹部から軽い熱が込み上げる。
…流石に勃たせはしねーけど、

「ダメっすか、」

「…もうちょっと、待ってほしいな…と。」

「もうちょっとって、どんくらい?」

「あと、3年くらい…?」

3年ってことは…1095日。26280時間。1576800分。
なっが。いや、なっがいな。

「…怖い?」

「っそれもあるし…、妊娠、とかしちゃったら…」

それを言われたらなんも言えねぇ。
甲斐性もなにもない高校生には。

「…堅治、は…その、ごめん。めんどくさいよね。」

名前がまた俯く。
顔は見えないけれど、声音から泣きそうなのがわかった。いや、そんな顔させたかった訳じゃ無くて。

「……わかった!」

「え、…?」

「焦ることじゃねーし、3年とか意外とあっという間だろ、多分。待つわ。」

「…いいの?」

「おう。」


何を血迷ったか、かっこつけすぎたか。
この約束を恨んだ事は数知れずだ。
まさか、この約束がここまで続くとは思わなかった。

名前と、また付き合うことになったその日。
泊まっていいかと言われ、再会したあの日以来、初めての泊まりだ。

「…そろそろ、寝る?私、ソファ借りてもいいかな?」

「だめだろ。」

カーペットの上に座る名前の手を引いて、ベッドへと誘導する。
一緒に倒れ込んでしまえば、俺を見上げる名前の目が、見開かれた。

「え、いやっ…その…」

「なに?」

「手、出さないって…」

「約束はしてない。」

「でも、私コンビニで買った下着だし…!」

「脱がせるから関係ない。」

てか、俺の服着てるってだけでいい。なんつーか、めっちゃいい。首筋に顔を寄せると、俺の使っているシャンプーと混ざった名前の匂いがする。
これを前に耐えろとか無理だわ。

「…3年以上、待った。」

「う”…」

ここであの約束を脅迫のように出すのは卑怯かもしれない。名前は、困ったように眉をハの字に寄せた。
あと一押し。

「抱きたい、」

シーツに縫い付けるように、手を絡める。
少し強めに握ると、名前の目が揺れて。
ーー控えめに頷いた。









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