進む fin.
「今も変わらず、名前のことが好きだ。」
見上げれば、こっちが恥ずかしくなるくらいの赤面。 二口、そんな感じのやつじゃなかったじゃん。 面食らって固まっていると、「返事は、」と二口が焦れたように言う。
「わかんない…けど、私も二口が好きなんだと思う。」
「なんだよ思うって。それはもう好きなんだよ、認めろ!!」
「なんで強気!?」
ほんと馬鹿。そんな馬鹿にドキッとした私も馬鹿。
「違ぇの?」
「…好きだよ。」
意地が悪い。顔が良いから、強請るように首をかしげられれば答えてしまう。 羞恥心を押さえ込んで好きだと伝えれば、いきなり抱きしめられた。
「もっかい。」
二口の腕の中は、久しぶりなはずなのに馴染んで落ち着く。私に甘えてくる言葉と、私を甘やかす腕。
「堅治のこと、好き。」
「…そーかよ。」
一度崩れてしまった関係が、こうやって元に戻るなんて思ってなかった。 今度は崩れないように、繋ぎ止めることができるように。二口の背中に腕を回せば、また強く抱きしめられた。
お互いの体温が混ざり合って、おんなじくらいになれば、緩められた力。 軽く身を捩って、二口の顔を見る。 いや、もう意地を張って”二口“なんて呼ばなくてもいいんだ。
「堅治、」
「…なんだよ」
「照れてんの?」
「照れてない」
「けーんーじー…ぎゃっ!」
茶化すように名前を呼べば、噛みつかれた頬。 突然のことに色気のない悲鳴を上げると、堅治がしてやったりという顔で笑う。 なんで噛みつくのよ、この空気ならキスとかで黙らせるのが鉄板な流れじゃ無いの?
「…ホント、色気皆無。」
噛みつかれて色気だせって方が無茶だ。 抗議の意を示そうと、堅治の服を指先め軽く引っ張った。少しあざとく上目遣いをしてみる。
「なんですかぁ〜?」
わかってるくせに、ムカつく。 しばらくじっと見つめて見たけれど、堅治は動かない。
「…キスしてよ。」
そう言えば、先程噛まれた頬が手のひらに包まれる。 耳たぶに指先がかすめて、噛みつくように唇を重ねられた。
「…舌入れさせろよ。」
「まだダメ。」
さっき焦らされた仕返し代わりにそう言うと、堅治は軽く舌打ちをした。 ガラが悪い。けど、堅治が私の行動で一喜一憂しているのは嫌いじゃない。
「私と、これからどうなりたい?」
これからの2人の関係を、堅治の口から聞きたいなんて言うのはワガママだろうか。 私は、また戻りたい。 あの時はすれ違って、誤解して、崩れてしまったけれど。今度こそ。
「戻る気はねーよ。」
堅治から出た言葉は私が期待していた言葉とは違っていた。戻る気は無い、ならなんで私の事を好きと言ったんだろう。鈍い衝撃を喰らった頭で、必死に思考を巡らせようとしたけれど、それは叶わなかった。
今度は優しく重ねられた唇、あまりにも不意打ちでうまく閉じれずに微かに空いた口内へと。堅治の舌が入ってきた。なんのことかわからずに、固まっていると舌を掬われて、上顎を刺激された。
「…〜っ、なっ、なに!?」
「焦らされてムカついたからやった。反省はしてない。」
本当に何がしたいの!? 軽く頭はパニック状態だ。パクパクと口を動かすけれど上手く言葉は出てこない。
「戻るっつーか、進むの方が良い。」
「すすむ…?」
「そう、進む。…とりあえず、付き合うとこから始めっか。」
戻るよりも、進む。 ちょっと捻くれているようで、実は真っ直ぐな堅治らしい答えは、ストンと腑に落ちた。
とりあえず、お付き合いから始めてみよう。 まずは、もう一度キスして。
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