終わりにしたの.
その日、放心状態で家に帰って。 すぐに連絡した。 『今日、今から会えない?』と。
その日のうちに返事は来なかった。 翌朝に来たのは、『ごめん、気がつかなかった』という返事。 気がつかなかったのはなぜ? あの女の人と一緒にいたから?
『仕事忙しかったの?』 『いや、部活の先輩達とメシ行ってた』 『どこで?』 『ふつーの居酒屋』 『ほんとに?』
疑うようなメッセージを送れば、既読のマークがついて、流れが止まった。 少し間が空く。その間が嫌に長く感じた。
『何疑ってんの?そういうのうざい』
無機質なゴシック体の文字の羅列が、心を冷えさせる。何を返していいのかわからなくて、スマホの電源を落とした。 疑ってる、疑ってるよ馬鹿。 先輩達と居酒屋?じゃあ、あの女の人は何よ。 どこまでが本当なの?全部嘘なの?
涙が一つ零れれば、二つ三つと後に続く。 カッと熱くなっていく目頭と、喉元にせり上がるしゃくり声。 長く付き合ってるから、安定してるなんて思い込みにすぎなかったのかもしれない。
涙が枯れる頃には、頭も冷静になってきて。 思い返せば、他にも前兆はあったのかもしれないと気づいた。
直近で二口にあった時。 宮城のデートスポットにはそれなりに行き尽くしてしまっていて、家でのデートが増えた。 二口がお風呂に入っている間に、洗濯物を畳んでいた時になった着信。
私のではなく、二口のスマホから鳴り響いたそれに目を向ける。 着信には、あきらかに女の人の名前が表示されていた。着信の前に来ているメッセージの数々が目に入る。
『二口君ってかっこいいよね』 『この間はありがとう』 『お陰で残業にならずに済んだよ』 『今度お礼させてね』 『今日よかったら飲みにいかない?』
「…露骨、」
露骨なアピールだった。 二口はモテる。高校生の頃だって、工業高校という男所帯で、母数が少ない女子達の3分の2くらいが二口をいいと思っていた。 これくらいよくある事。そう割り切ろうとしたけれど、あるメッセージにピシッと顔が引きつるのがわかった。
『彼女いないんでしょ?』
なんだ、あれもそういう事か。
考えれば考えるほどに沈んでいく思考。 二口が私にこだわる理由なんてないだろうしな、なんて自虐に走っていく。 付き合ったのだって、たまたま席が近くて仲良くて。女子も少ないし、運が良かっただけ。 そもそも、3年付き合ってセックスもできない私と付き合ってて、他の人に目がいかない訳が無い。 自分が無理やり押し付けた約束が、こんな風に刺さるなんて思ってもみなかった。
こんな私にだって、たまに言い寄ってくれる人がいる。二口に拘らなくてもいいじゃない。 二口だって、引く手は数多だろうし。
腫れた目を冷やしながら、スマホの電源を入れた。 勿論二口からは何も来ていなくて、心の片隅に居たほんの少しの期待は儚く散った。
『ごめんね、言い方良くなかった。』 『近いうちに会える?』
もう、終わりにしよう。 そう思いながらメッセージを送った。
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