危機一髪.




髪を乾かし終えて、すぐに。
簡単にお礼を告げて二口の家を後にした。
用事があるとか、なんとかいって。

二口のこと、私もまだ引きずってるんだな。
こんなにドキドキしたり、凹んだりしたのは久しぶりだ。

ここ最近は恋愛関係で特に浮き沈みも無かった。
年上の彼に浮気された時も、思ったより落ち込まなかったのは、結局のところ、そんなに好きじゃなかったんだろう。
二口に他の女の人がいることがわかった時は、ふとした時に涙が止まらなくなったり、感情を抑えきれなかった。

「…おかえり」

玄関のドアの前、うずくまって座っている彼がいた。

「なんでいるの、」

「名前今日休みだろ?ちゃんと話したくて来た。…出かけてるみたいだから、少し待ってたんだ。」

「だからってドアの前で待つのやめてよ。」

「はは、ごめん。入れてくれる?」

どの面下げて言ってんの。
そんな事を言えば、逆上されるかもしれない。
感情の起伏が大きな人だから。

「…私、お腹すいちゃって。荷物置いてファミレス行こうと思ってたんだけど、ほらっ家に何も無いし!一緒にご飯たべながらでもいい?」

「そうなんだ、じゃあ行こっか。」

よかった。家に入れる事は防げた。


並んでファミレスへと行き、ドリンクバーとネギトロ丼を頼んだ。彼はドリアを頼む。
いざと言う時に、早く帰れるように。
ネギトロ丼は冷めてるから食べるのに時間がかからなくて丁度いい。

「…それで、話って?」

「名前さ、俺が浮気したと思ってる?」

そりゃそうでしょ。
ピンクベージュのハイヒール、慌てていたあなた。
浮気じゃなかったらなんだと言うんだろう。

「あれさ、ただ家に女の子入れただけで何もしてねーからね?」

「なんで女の人を家に入れる必要があったの?」

「…っそれは、その、友達だし、…遊んでただけだよ。」

「そっか。でも、何をしようとしまいと、私が浮気だって思ったらそれまでだから。私、前の彼氏にも浮気されて、こりごりなの。」

言い訳するくらいなら、もっと上手く作り込んでから来てよ。
ネギトロ丼を勢いよくかっこんで食べ終える。
財布から千円抜き取って机に置いた。

「そういう訳だから。ばいばい。」

彼の熱々のドリアはまだ残っている。
店を勢いよく飛び出せば、彼は追いかけてこなかった。



ーーはずなのに。
あれから、ここ2週間ずっと着信が止まらない。連絡先をブロックしてしまえばいいんだろうけれど、それがバレたらまた家まで来そうな気がした。
一応既読だけつけて、ため息をつく。

何を私にそんなに執着する必要があるんだろう。

今日は帰りが遅くなって、更衣室の戸締りを任された。閉まっているか確認しようと窓枠に手をかければ。

「えっ、」

窓の外に見えた人影。
街灯に照らされている姿はきっと、彼だ。

「待ち伏せ…?」

どうしよう、人と帰ろうにも皆帰ってしまっている。
残っている人たちは、残業している男性社員たちだけで、まだまだ終わりそうに無い。

どうしよう、ストーカーってやつ?
途方に暮れていると、また着信が入った。

「こわいこわいこわい!」

これ、帰って大丈夫なの?
でも、待ち伏せされている所を通らないと家には帰れない。警察…いや、彼のことだから上手く誤魔化してしまうだろう。

「どうしよう、」

また着信の音が響いた。







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