爆心地!2歳年上の女優と熱愛発覚!
スポーツ新聞によくある見出しに、自分の恋人の名前が載るなんて誰が想像しただろうか。

2歳年上の女優は勿論私のことじゃ無い。
見積もり平均点な顔つき。高校時代のクラスメイトには、凡庸さが魅力とさえ言われた私は、女優になれるわけがない。

「ぁぁあ…顔ちっさぁ!!」

通勤バスを待っていたおじさんが広げていたスポーツ新聞。
それを見かけてから、オフィス前のコンビニで即購入した。
確かに写っているのは勝己君だし、隣は美人女優。
勝己君だってスタイルいいのに、顔がちっさいのがわかる。しかもほっそい。

「あれ、名字爆心地のファンだったっけ?」

「いや、ショートのファンですけど…ちょっと気になって。」

勝己君との交際は隠しているし、表向きはショート…轟君のファンということにしている。

「その女優、確かお嫁さんにしたいランキング1位だったよな。めちゃくちゃ可愛くて、性格よさそーだし。清楚そう。」

「私も清楚じゃないですか?」

無視は良くない。
そっと離れていった上司の背中を睨んだ。

ハートブレイクを隠しつつ、仕事に打ち込むと定時は思いの外すぐだった。

時間を確認するためにつけたスマホの画面に、勝己君からのメッセージ。
『マスゴミが鬱陶しいから暫く家帰る。』
ここで言う家は、勝己君の一人暮らしの部屋だ。
私の家に来たら騒ぎが凄いことになる。
半同棲の生活も、暫くはお預けだ。
帰ったら勝己君がいる生活…プライスレスだったのに!

その後、メッセージが送られてくる事はなかった。

報道に関して、否定してくれてもいいじゃん。
違うのはわかっていても、不安な気持ちが胸に巣食う。余計に不安な気持ちを増すとはわかっていても、あの女優について検索してしまう。



「めっちゃいい子じゃん…」

オタク気質のせいで、3日ほどで出演作品のあらかたを見てしまった。めっちゃいい子。かわいいのに、子役時代から舞台をしていたこともあって、礼儀正しく、演技も上手。

「短所ですか…親からはわがまま言えないところって言われます。自分の気持ちをもっとだしなさいって。」

インタビューでの発言。
え、私なんか勝己君が一緒にお風呂入ってくれない事で駄々こねて、お風呂覗こうとしてたけど。
いい子すぎない?
勝己君とこの女優さん公式CPになっても異論は無いくらいだ。

会えなくても電話だけでもしたい。
そう思っていたけれど、女優さんの言葉を思い出す。

「わがままは、暫くがまん!」

きっと、勝己君だって疲れてるだろう。
気を紛らわせるために、テレビをつけると、ヒーロー特集で勝己君が出ていた。

「爆心地、最近話題ですねぇ。抱かれたい男ランキングにも入っていましたが…、清純派女優さんとって、やっぱり彼もそういう一面がねぇ。」

「一時期、指輪をしていた時期もありましたが、伏線だったのかもしれませんね。結婚も秒読みでしょうか。」

コメンテーター達…ゲスい。
勝己君に抱かれてるのは私だし!プロポーズっぽいこともされたし!!

プロポーズ、だったのかな。
学生の頃にもらった指輪は、桁が多すぎてつけることはできず。机の引き出しにしまいっぱなしだ。
勝己君は一時期つけていたけれど、戦闘で傷が入ったために、同じように仕舞っているらしい。

「もう、結婚適齢期になったのになぁ。」

社会人も2年目。
そろそろ将来も考え始めていたけれど。

先に社会に出ていた勝己君には、沢山の出会いがあったのかもしれない。
あの報道の新聞を見る。画質は荒いけれど、きっとこの背景はホテル街で。

私みたいに子どもっぽい女には飽きたのかもしれないな、なんて思う。報道に対しての弁解が無いのも、別れを切り出されるのを待っているのかな。

「勝己君…会いたい…。」

打ちひしがれて、メイクも落とさずに寝てしまった昨夜。
朝起きてから、点けたテレビには。
やっぱり勝己君の熱愛報道は取り上げられていて。
夢だったらよかったのになんて思いながら、家を出た。



「名字さん、最近不審者出てるらしいから、早めに帰りなね。」

定時より少し早い時間に、上司から声を掛けられた。

「不審者ですか?」

「そう。若い女の子が狙われてるみたいでね。跡をつけられるらしい。ちゃんと後ろに気をつけて帰るんだよ。」

「それもう死亡フラグじゃないですか!」

「あはは、ごめんごめん。僕が送ってくよ。」

上司の言葉に、少し迷う。
確かに怖いけど、オフィスから家までの距離はそんなに遠くない。
それに、勝己君以外に送ってもらうのは気が引ける。

「いやいや!大丈夫です!タクシー使うので…お気遣いありがとうございます。」

丁重にお断りすると、上司は「そっか、気をつけてね」と缶コーヒーを奢ってくれた。優しい。

せっかく上司が忠告をしてくれたのに、帰るのは遅くなってしまった。
口実にしていたタクシーは捕まらず、帰路につく。
最近寒くなってきたからか、日が暮れるのは思っていたよりも早い。

街灯が多めの道を通って来たけれど、ヒタヒタと私の数メートル後を続く足音がやけに気になる。
さりげなく後ろを振り返ってみると、フードをかぶった男性と思われる姿。

きっと道順が一緒なんだろう。
不審者情報なんか聞いたから、気になるだけ。
ちょっと…コンビニはいろっかな。
夜ご飯買いたいし、うん。



今日の締め括りのご飯だ。20分くらいは平気で悩んでたと思う。
雑誌を眺めるついでに、外を見ると誰かがウロウロとしていて。フードをかぶった男だった。

「…寒くないのかな?」

いや、呑気すぎる!
…でも寒くない?結構冷えてきてるよ?
コンビニの中にいるのは、私くらいで。
不審者の三文字が頭をよぎる。

帰りたいけれど、帰れない。
誰かに助けを呼ぶにしても、女の子をここに呼ぶわけにはいかないし、コンビニにいる店員さんも女の人だ。危険に晒すのは気が引ける。
警察呼ぶ?…いや、もし違ったら…大事にしたくない。

店の奥の方で、スマホの連絡先をスクロールする。
…申し訳ないけれど。

「もしもし、ごめんね。今大丈夫ですか…?」

10分もかからない内に、来店を告げる電子音が鳴った。

「名字、悪い。待たせたな。」

「いやいや、こちらこそごめんね!」

セットされていない髪と、軽く変装を兼ねているのか、シンプルな帽子とメガネ。全くの別人みたいだ。

久しぶりに連絡をしたにも関わらず、すぐに来てくれたのは、高校時代から勝己君と親睦のある切島君だ。

「表に、居たやつな。…あれ、記者だ。」

「記者…?」

「見覚えあったからよ、一応声かけた。ヒーロー免許証見せて、通報受けてきましたって。そしたら記者だってよ。厳重注意して帰らせた。」

なんで記者が、とか。なんで私を、とか。
聞きたいことは沢山あったけれど、変な安堵のせいで言葉を飲み込む。

「仕事終わりなら、腹減っただろ?送ってくから帰ろーぜ!」

にかっと笑う切島君は、やっぱりヒーローだ。
豪華すぎる用心棒を連れて、家まで歩く。

「ほんとごめんね。切島君彼女居るのに…」

「彼女に事情話したら、すげぇ心配して早く行けって送り出してくれた。だから大丈夫!」

え、切島君の彼女優しすぎない?
優しい人は、彼女も優しいの?

「それよりさ、今度爆豪入れて4人で会おうぜ!俺の彼女、名字がくれた文化祭のDVD好きで。名字に会ってみたいって。」

「二人の結婚式の映像は任せてください…!」

「結婚、近々すると思うから…その、頼むわ!」

頭の中で、教会の鐘が鳴る。
その後も、切島君の惚気を聞きながら家に着いた。

「ほんとにありがとう…!この御恩は必ず…!」

「気にすんなよ!そこそこ家も近いし、またなんかあったら連絡してくれ!」

切島君、いい人すぎる。

お礼を言ってエントランスに入ろうとすると、切島君から名字!と呼び止められた。

「…余計な事かもしんねーし、今の状況じゃ厳しいかもだけど。爆豪にもっと甘えたり、頼ってもいいと思う。」

「…そうかな。」

「おう。まぁ、名字なりに考えて俺を呼んだのはわかるけどな。せめて今日あったことは、ちゃんと伝えておいたがいいぞ。」

俺だったら、と切島君は前置きをして。

「彼女が危険な目に遭ったのに秘密にされとくのも、他の男に頼られるのも、結構キツイ。」

きっと私の立場を彼女に置き換えて考えているんだろう。切島君の顔は、悲しげだった。

「うん、そうだね。ちゃんと報告する。」

「おう。」


切島君とお別れして。
コンビニで買ったオムライスを食べて。
お風呂に入って。

勝己君に連絡しようと思った頃には、日付は回っていた。遅い時間だし、勝己君も寝てるかもしれない。
やめとこうかな…と日和った所で、切島君の言葉を思い出す。

電話のコール音が2回で途切れた。
繋がった先から、低く掠れた声の返事が聞こえる。

「ごめんね、夜遅くに。」

「…どうした。」

「あのね、今日…」

かくかくしかじか。
今日の出来事を話していくと、徐々に勝己君の相槌が不機嫌なものに変わっていった。
話終えると、電話越しに大きな舌打ちが響く。

「今から行く。」

「っ、終電!」

「タクシー。」

通話を切られて、慌てて部屋を片付ける。
私の家から、勝己君の家までは二駅程の距離。
最近、掃除をサボっていたせいで部屋は荒れている。


人をあげられるギリギリのレベルになった頃、インターホンが鳴った。
玄関に出ると、不機嫌な顔をした勝己君。
久しぶりに会えたから嬉しいはずなのに、めちゃくちゃ怖い。逃げたがっている本能を抑えつつ、部屋に通すと、すぐに座るように言われた。
勿論、正座(自主的に)。

暫く続いた静寂を、勝己君が打ち破ったのは、私の足が痺れ始めた頃だった。

「実印、よこせ。」

「…じついん?」

はい?と聞き返したくなるような単語の意味を解釈出来ずにいると、勝己君がキャンパスバッグから雑誌のようなものを取り出した。
バシッと叩きつけるように床に置かれたその表紙は、この状況に相応しく無いもので。

毎月付録が豪華な、花嫁さんが集めるソレだった。

「役所開いてねーから、これで我慢しろ。」

雑な手付きで勝己君が取り出したのは、破れないと噂のピンクの婚姻届。

…待って!色々ツッコミたい!!!

「どういうこと!!!?」

今までの一連で分かったことは、勝己君がエコバック派だって事と、ゼ○シィ買ってきたって事だけだ。

「籍入れる。お前の親に挨拶行った帰りに役所に出す。」

「いや、わかったってならないよ!説明下手なの!?テストの度に助けてくれた解説力どこいった!」

何言ってんだコイツって顔してるけど、何言ってんの勝己君。
溜息つきたいのはこっちだ。

「…その1。マスゴミに干渉されんのも事務所にゴチャゴチャ言われんのも鬱陶しい。」

勝己君の青筋が立つ。本当に我慢の限界なんだな、この人。ついにおかしくなったのも、そのせいかもしれない。

「その2。お前に変な気の遣い方されて、連絡よこさねーわ、挙げ句の果てにクソ髪に頼るわ、されんのも我慢ならねぇ。」

あ、やっぱり怒ってらっしゃる…。
ピンクの婚姻届という勝己君にミスマッチなそれを、ぐしゃりと顔に突きつけられた。

「その3。いつか籍入れんなら、今入れても一緒だろうが。」

なるほど、勝己君の言いたい事はわかった。
ここでいわれた通りに記入しても別にいいけれど。

「…やだ。」

「ァア”?」

「入籍する条件として、その1。熱愛報道への弁解がされてません。詳細を述べるとともに信頼回復をお願いします。その2。切島君と彼女と、私と勝己君で交流する機会を要請します。」

切島君の言っていた”甘えたり、”って、こんな感じかな。絶対に違うだろうけど、わがままを言うのを許してほしい。

「その3!もっとロマンチックに且つ、情熱的な愛の言葉でプロポーズしてください!」

「テメェ…!」

「あ、その4!テメェ、お前禁止!ちゃんと名前って呼んで!」

ビキビキ、と勝己君が震える。
耳が赤いのがわかってるから、怖くはない。

「ふふ、できないならしょうがないなぁ…妥協しようか?」

「ッできるに決まってんだろーがッ!!」


お隣さんから、壁ドンされる程の怒号が響いたその日の夜は、愛する人とピンクの婚姻届を枕元に。
ロマンチック且つ情熱的なプロポーズを待つ、愛しいひと時を過ごした。




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