勝己君と、今日で3年目の記念日だ。
勝己君はプロヒーローになって、2年目。最近、メディアに雄英トップ卒業の若手サイドキックとして、取材され、知名度も上がってきている。ビジュアルも抜群に良いから、ガチ恋ファンも多い。
まぁ、勝己君のあのルックスだから仕方ないよね!
自分が同担拒否では無いのが救いだ。

「今日も忙しそーだなー。」

テレビで中継されている敵との戦闘には、勝己君も参戦してるみたいだ。
バチバチという火花に加え、「退いてろ!モブ共!」という勝己君なりの避難指示が聞こえる。
も〜不器用なんだからっ!!
がんばってるなぁ、と思いながら、今日の夕飯の準備をする。
今日は、私の家に勝己君が来るから張り切って準備しなくちゃだ。

「言いたいことがーあるんだよー!やっぱり勝己はかわいいよー!好き好き大好きやっぱ好きー!」

ガチ恋口上を口ずさみながら作る料理は、愛がこもってこもりまくってるから美味しいはずだ。

ある程度の下ごしらえも終わったし、勝己君が帰ってくると連絡があったら、そこから作り始めよう。
テレビを見ると、敵は捕らえられたようで、事件も収束に向かっていた。

思ったより早く帰ってきそうだなと思いながら、お風呂を溜めて、夕飯の続きに取り掛かる。
準備を終えた時、丁度玄関のチャイムが鳴った。

「はーい!おかえり勝己君!まずは私だと思うけど…その次はご飯にする?お風呂にする?」

「風呂、のあと飯。」

私の選択肢省かれた!
かわいい彼女のかわいい提案を破って、勝己君がお風呂場に直行する。
これは覗けという事だと解釈するしか、リベンジの方法はない。

「…迷惑防止条例違反。1年以下の懲役、または100万円以下の罰金。」

「なんで盗撮の罪状と刑罰を淡々と述べるの〜!」

「民間人のテメェが盗撮の罪状知っとんのが問題だわ!」

「法のギリギリを攻めないと!」

峰田君の真似をすると、勝己君がアイアンクローをかましてくる。痛い痛い痛いたい!プロヒーローのアイアンクローは罪に問われないのに、なぜ彼氏のセクシーショットを狙うことは罪に問われるんだ!!

世の中の理不尽さを嘆いていると、脱衣所から放り出された。悲しみを胸にご飯を温め直す。
テーブルセッティングをしていると、お風呂上がりでほかほかの勝己君が、頭を拭きながらキッチンに来た。色白の肌がほんのりと赤くなって、いつもはツンツンしている髪が、雫を纏っている。なんか…エッチ!

「何がエッチだ、キメェわ。」

「何度見ても官能的なんだもん!」

またアイアンクローの構えが近づいてきたので、お鍋で防ぐ。フッ、まだまだだね!

「痛い痛い痛い!!」

脇腹を摘まれて、ひっぱられる。最近太ったのに対する嫌味も含まれている攻撃。勝己君にはまだ勝てない。

「俺に勝とうなんざ100年早ぇわ。ほら、飯食うぞ。」

向かい合わせに座り、すべての食材に感謝をこめて手を合わせる。今日の献立はビーフシチューだ。

「美味しい?」

「悪くねぇな。」

勝己君がフッ、と軽く微笑む。付き合う前はあまり見れなかった笑顔が、付き合ってからよく見れるようになった。最初はレアだ!と何度もシャッター音を鳴らしていたけど、今は日常の一部みたいな感覚になったのが、なんだか嬉しい。

「勝己君、いつもありがとうね。」

「…俺も、ありがとうございます。」

かわいい。「ごめんね」と「ありがとう」を意外と勝己君は言ってくれるようになった。
元々、光己さんはきちんとそういうの躾けるタイプだし、勝己君は見せないだけで情に篤い。

「ねー、勝己君。私さ、バイト代結構貯まったんだよね。でさ、少し奮発して、ペアのネックレス買おうと思うんだけど、どうかな?」

いい感じの雰囲気に浮かれて言うと、勝己君がぴたりと固まった。

「…却下。」

思いもよらなかった言葉に、今度は私が固まる番だった。なんで、と言うのを遮るように、勝己君が、ため息をついた。

「ネックレスなんぞ戦ってたらチェーンが切れる。大体、学生のバイト代じゃ大したもん買えねーだろ。」
 
正論で返されたからか、自分の気持ちが踏みにじられたような感覚からか、言葉につまった。
勝己君は、確かにプロとして働いているし、お給料だって桁が違う。
でも、いつも出してくれるデート代のお礼に、少しでもお返しがしたかった。

「…そっかぁ、ごめんね。」

絞り出した言葉は、自分で感じるくらい情けなくて、なんとか作り笑いを浮かべるのが精一杯だ。

それから話は弾まず、その夜は気まずさが残って、勝己君も泊まってはいかなかった。


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