瀬呂の彼女という立場をゲットしてから、日々は少し変わった。
電話や、部屋に行く回数は増えたし、
意外に二度寝するタイプだから、モーニングコールには中々出てくれないとか、知らなかった一面を知ることができた。
付き合う前と同じように、昼休みは瀬呂と上鳴と一緒に学食へ向かう。爆豪と切島もたまにいたりするけど、今日は三人だ。
「お前らさー、俺気まじぃよ!リア充とランチなんてよぉ!」
「発端は上鳴じゃん。爆豪と切島と食べれば?」
「やだよ今日暑いし!あいつらとのランチは暑苦しいの!」
「なによ、その謎理論…」
私と上鳴の掛け合いをよそに、瀬呂は誰かに声をかけられていた。
「あ、悪い!2人とも先行ってて。」
声をかけたのは、制服的に、普通科だろう。かわいい女の子だった。
瀬呂は、その子に連れられていった。
「名字、お前何ぼーっとしてんのっ!絶対告白じゃん!あの子見たか!?めっちゃ可愛かったぞ!」
「よくあるじゃん。瀬呂、謎に交友関係広いし。」
「お前、今は彼女だろぉ?」
やれやれ、とでも言いたげに上鳴がため息をついた。
じゃあ、どうすればアンタは満足なのよ。
「行かないで、とかさぁ!きゅるんって上目遣いで言えばイチコロよ?」
無駄に顔がいいから、ちょっとかわいい。ムカつく。
「向こうの女の子にも悪いし。瀬呂には効果なさそう、それ。」
「なんでだよー!あいつもDK!ダンスィコウセイじゃん!彼女の上目遣いとか色んなとこがきゅんきゅんしちゃうぜ!?」
彼女とは言っても、ノリで付き合ったんだから、友達の要素の方が大きい。
付き合ってから、何日か経ったけど、手を繋いだのか唯一の進展だ。
あの女の子は、好きってちゃんと伝えようとしているだろうに。私は好きとも言えずに、運が良く付き合って、この先どうするんだろう。
学食について、並んでいると瀬呂は帰ってきた。
「おかえり。」
「おう、悪いね。」
「瀬呂ぉー、やっぱ告られたの?お前ほんと謎にモテるよなぁ!くっそ!」
瀬呂がこちらを見ながら、苦笑いをした。
どうやら当たりらしい。
「…断ったよ。一応、名前と付き合ってるし。」
くしゃり、と髪を撫でられた。少し落ち込んでるの伝わっちゃったのかな。
嬉しいはずなのに、”一応”という言葉が引っかかってしまうのは、心が狭いだろうか。
もしも、付き合ってなかったら。
瀬呂はあの子と付き合ってたのかな。
少しそんなことを考えたけれど、撫でられた髪に触れながら、この立場は失いたくないなと思った。
「ちょっと!いちゃつくな!!」
「そーゆーところがモテないんじゃない?ばかみなり。」
「名字今日俺に当たり強い!」
「うるさいからじゃね?」
そんなくだらない話をしながら、ランチクックからご飯を受け取り、席につく。
瀬呂は私の隣に座ると、デザートのプリンを私のお盆に置いた。
「なに?くれるの?」
「名前、プリン好きじゃん。」
「ありがと。」
好物ってほどじゃないけど、付き合う前に、雑談の中で好きだとは言った気がする。
好きとか、そういう言葉はなくても、そんな何気ないことを覚えてくれていたことが嬉しい。
ふと、遠くにさっきの女の子が見えた。
そこそこ好きな食べ物を覚えてくれるくらいには、瀬呂と私の距離は近いから。
心の中で、そんなしょうもないマウントをとった。
なんか情けないな。