瀬呂夢 | ナノ




…範太は、女子の扱いが上手い。
気づけばさりげなく車道側を歩いているし、歩幅を合わせるのだってお手の物。
荷物を抱えてドアの前で立っていれば、さっとドアを開けてくれるだけでなく。
「はい、交代ね。」とか言って荷物を持ってくれる高校生男子なんて、少女漫画の世界にしか居ないと思っていた。

普通科のあの子も、さりげない範太の気遣いに惚れたと言っていた。
わかりみが深い。

「余裕が、あるんだよなぁ…。」

他人をサラッと気遣う余裕だけじゃなくて、恋愛面でも然り。
それが私を悩ませる。
付き合う前は、所々で余裕の無いところが垣間見えたのに、付き合ってからは全然だ。

今日は、範太とはじめてのデート。
デートって言っても、カフェにランチに行くってだけなんだけど…。
絶対に範太の余裕を打ち砕いて見せる!
そう意気込みながら準備をしている真っ最中だ。

薄めのメイク。バックシャンのトップスにスキニーを着る。これは、クラスの中でも一番の女子力をもつ透に選んでもらった。きっと範太にも可愛いと思ってもらえるはず。

寮の部屋を出てラウンジに行けば、クラスメイトにはニヤニヤされた。

「瀬呂君、こんな可愛い子連れて出掛けるん?羨ましい限りですなぁ〜」

「名前ちゃん、とっても素敵だわ。」

少し気合を入れすぎたかな…と内心後悔していると、範太が自分の着ていた上着を私の肩にかけた。

「だな。じゃあ、可愛い子ちゃん連れてしっかり楽しんできますよっと。」

じゃーな!と皆に手を振って、範太は歩き出した。
私も後に続いて、靴を履き替えて歩く。

「あ、ごめんな。歩くの早かった?」

「少し…」

「手、繋ごっか。」

ほい、と手を差しだられて、やっぱり余裕たっぷりな範太に早くも負けた気分だ。
私は、範太の上着の柔軟剤の匂いだけでずっとドキドキしてるのに。

スカしたしょうゆ顔を軽く睨んでみたけれど、笑われてしまった。

「なに?お腹すいたの?」

「空いてない…こともない。」

「んだよ、それ。」

やっぱり笑われてしまう。
他愛もない話をしながら、カフェへと向かった。




「…めっちゃかわいい!なんかレトロって感じだ!」

「でしょ。名前好きそうだなって思って。」

範太が連れてきてくれたカフェは、レトロな外観をしていて、落ち着いた雰囲気だった。
ランチタイム前だからかそんなに混雑もしていない。
アイボリーを基調とした店内は、所々にお洒落なドライフラワーや、間接照明で彩られている。

「俺の部屋にあるティーパックとか、ここで買ってんだよね。」

「範太って、おしゃれだよね。」

「まぁ、ギャップの瀬呂君ですからね。あ、ソファーの方座りな。上着と荷物こっち置こうか?」

「あ、うん。ありがとう。」

店員さんとも顔見知りのようで、窓際の席へと案内された。サラッとソファーの方座るように言うのも、やっぱりエスコート慣れしてるなと思う。

「何頼もう…。」

渡されたメニュー表はどれも美味しそうだ。
オムライスかなぁ、でもこのパスタも美味しそう。

「何で悩んでんの?」

「オムライスと、パスタのどっちにしようかなって。」

「オムライスちょっとボリューム多めだから、パスタにしたら?俺がオムライス頼むし、シェアすんのはどう?」

「じゃあ…パスタにしようかな。」


先に運ばれてきたサラダやスープに手をつけながら
クラスメイト話や訓練の話をしていると、女の子五人くらいのグループが来店した。
そろそろランチタイムの時間か…と思っていると、そのうちの一人がこちらへと向かってきた。

「やっぱり、範太だ!久しぶり!」

2、3歳くらい年上かな。
大人っぽいその人は、すらっとして美人だった。
普通科のあの子とは反対な感じだけれど、モテそうな人だ。

「…あー、久しぶり。」

知り合いのようで、範太も挨拶を返した。

「会わないうちに大人っぽくなったね!なんか身体もガッチリしてるし…腕触らせてよ!」

範太の腕に、その人の手が伸びる。

「だっ、だめ!」

静止の声に、その人が手を止めてこちらを見た。
上から下まで評価するような目線が、嫌な感じがする。

「え、もしかして彼女?ごめんね、友達かと思った!範太のタイプと全然違うからさぁ」

ピク、と動いた範太の指先が図星の証みたいに思えて、思わず顔が強張るのを感じた。

「彼女とデート中だから。空気読んでくれる?
…ホラ、友達待ってんじゃねーの?席戻ったら?」

そう言われて、女の人は自分のテーブルへと戻って行った。

入れ替わりのように、オムライスとパスタが運ばれてくると、なんだか話も流れてしまって、あの人については触れられなくなった。

「オムライス、いる?」

「いや、思ったよりサラダとかでお腹膨れてきてるから…大丈夫!」

範太がお皿を私の方へ寄せてくれるけれど、そんな気持ちにもなれなくて断ってしまった。
食後の紅茶も美味しかったはずなのに、なんとなく気まずさを拭えないまま、店を出た。
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