「お互い間違ってたことがわかってんなら、大丈夫だ。」ーー轟の言葉を思い出して、授業間の休み時間に瀬呂に声をかけた。
「瀬呂、ちょっといい?」
「あー、課題の確認しなくちゃだから、後で頼むわ。」
放課後にも。
「一緒に寮戻んない?」
「俺、自主練したくてさ。悪いな。」
「じゃあ、私も自主練…」
「そっか、お互いがんばろうな。」
その日は、瀬呂に話しかけても、うまくかわされてばかりだった。
なんとなく避けられていたのもあるし、私に勇気がないのも原因だ。
「お前さ、瀬呂となんかあったの?全然話さねーじゃん。」
自主練をして、帰路につく。
隣にいるのは瀬呂ではなく、上鳴だ。
ハンバーガーのお礼を言うと、上鳴は不思議そうに尋ねてきた。
上鳴に気づかれる程わかりやすいってことは、きっとクラスメイトにもわかってしまってるんだろう。
「まぁ、ちょっとね。私が悪いんだけど…。」
「なんか俺も責任感じるわー。だって、電気くん、お前らのキューピットよ?折角念願のカップル成立なのによー!」
上鳴は、悶えながらも、努めて小声で騒いだ。
ちょっと注目されてんじゃん、やめてよ。
「このまま、ずっと避けられたらどうしよう…。」
「それはねーから心配すんな!」
不安をこぼすと、上鳴はぐっと親指を立てた。
「瀬呂、お前にベタ惚れだかんね。」
「…上鳴に何がわかんのよ。」
少しぶっきらぼうな返事になってしまった。
それでも、上鳴は気にしていないようで、安心する。
「何、名字ってば気付いてなかったわけ?あいつわかりやすいじゃん!パーソナルスペース広い方なのに、お前にだけめちゃ近。下心の塊だぜ!やらしいなぁ、おい!」
瀬呂って、パーソナルスペース狭いと思ってた。
顔近づけてくるし、それはすごくうれしかったけれど。皆にそうだとばかり思っていた。
「…私、ノリで付き合うって聞いてきたのかなって思ってたんだ。」
「はぁ?…まぁ、あの流れだったら…無理もねーか。」
「そんで、瀬呂の気持ち踏みにじっちゃった。…ノリで付き合ってるんだからこう言うことするのは違うでしょって。」
「待って!ちょいちょいちょい!何したわけぇ!?」
あ、やば。口滑らせた。
ごまかすために、無言でにっこりとすると、上鳴は驚いた顔でパクパクと口を動かした。
「それは置いといて…上鳴にお願いがあるんだけど。」
「お願いー?勉強とかは無理だぜ。」
「全然、勉強は関係ないから大丈夫!」
頼み事を告げると、上鳴は少し微妙な顔をしたけれど、しぶしぶ頷いてくれた。
「おれ、お前らのために一肌も二肌も脱ぎすぎて、そろそろ全裸になりそうだわー。」
「ありがとね、上鳴。今度他校の友達紹介したげるね!」
確か、彼氏がほしいと言っていた友達がいた。
お礼としてそれを言うと、上鳴は少しキリッとした顔をした。
「いえいえ、滅相もない。友人に協力するのは当然のことですから。」
普段からその顔してればモテるかもしれないのになぁ。人が良くて、ノリもいいんだから。
「じゃあ、今夜お願いしてもいい?」
「うーん…、明日は?」
まぁ、今夜急には難しいか。
「わかった、明日お願い。ありがと。」
「はいよ!キューピット電気君に任せとけ!」
にかっと笑う上鳴を見ると、なんだか大丈夫な気がしてくるのが不思議だった。
友人に、色恋沙汰の頼み事をするのは初めてで。
相手が上鳴でよかったな、なんて思った。