憎まれ口も許して.




連絡を取らないまま、5月に入った。
テレビで雄英体育祭の宣伝がある度に、鋭児郎のことを思い出し、胸が締め付けられる。
去年は鋭児郎の家で一緒に見たっけ。

今年は、あんまり見たくないな。
1年生の部を放送するチャンネルは、特に人気の局で、敵襲撃に立ち向かったことへの話題性の現れだと、テレビでコメンテーターが言っていた。

「…何が話題性よ。」

人ごとだからそんな事が言えるんだ。
一歩間違えたら死んでしまっていたかもしれないのに、世論の呑気さに呆れる。

LINEの通知音がなって、待ち受けに表示が出た。

『鋭児郎:今日、頑張るから見ててくれ』  

絵文字もスタンプもない簡素な文。
返す気が起きなくて、ただ眺めた。
もうそろそろ始まる時間だろうけど、意地が働く。

部屋で寝ようかなと、リビングから階段を上り、できるだけテレビから遠ざかる。
布団に丸まって暫く目を閉じていると、眠りが浅い日が多かったせいか、すぐに眠りに落ちた。


目を覚ますと2時間ほど経っていた。
時間を見るために開いたスマホの画面には、沢山の通知。
そのほとんどが中学の友達からのものだ。

『切島活躍してるよ!』
『第1種目、9位だってよ〜、切島すごいね』
『騎馬戦、すごいよ!切島のいたチーム2位!』

もう、すでに第2種目まで終わったんだ。
活躍を通知で知って、鋭児郎からのLINEを思い出す。

『見ててくれ』

応援するって決めたのは、誰だ。
壁にかけてある制服が目に入った。その胸ポケットにいつもあるのは、鋭児郎の第二ボタン。

ーー「今日から雄英でがんばってね、ヒーロー!!」

頭の中で反芻された自分の声。
ボタンを手に取り、階段を駆け下りる。
テレビの電源を入れると、第3種目が始まっていた。

見覚えのある同級生、芦戸さんが映っている。
鋭児郎の憧れである芦戸さんはあっという間に相手の男の子を倒してしまった。

「すごい…。」

番組情報を見てみると、次の次が鋭児郎の出番だとわかった。
次の試合も、あっという間に女の子が場外に出されて終わる。

鋭児郎も芦戸さんの相手とか、この女の子みたいにすぐ倒されてしまったらどうしよう。
そう不安に思っているとすぐに鋭児郎の出番になった。

「第7試合は!個性だだ被り対決!」

相手の紹介と鋭児郎の紹介がされる。紹介すらだだ被りで気が抜ける。
試合が始まると、お互い殴り合いが始まった。
殴っては効かず、殴られても効かず。
鋭児郎が誰かとこんなに真剣に殴り合うところなんて見たことがなくて、手が震える。
体力勝負のような試合。
相手の人が倒れるのを待つしかない。

「頑張れ!鋭児郎!」

その瞬間、二人の拳が交差し、お互いの顔面に入った。
二人が同時に倒れる。

結果は引き分け。その後の腕相撲で鋭児郎の2回戦進出が決まった。
電話をかけてみると、不在着信になり、すぐに向こうから掛け直された。

『もしもし、どうした?』

「…さっきの試合、見たよ。身体、大丈夫?」

「見ててくれたのか、サンキュな。身体はへーき。治癒の個性の先生いるから。」

ほっと胸を撫で下ろした。少し流血してるのも見えたから心配だった。

「次も見てるから、頑張ってね。」

『おう!』

電話が切れるかな、と思い少しスマホから耳を話すと、『なぁ名前』と言葉を続けた。

『俺さ、お前に応援されるのが一番力湧くんだ。だから、ありがとな!』

「ばか…。」

こっちが恥ずかしくなるくらいのストレートな感謝の気持ちが、憎まれ口を叩かせる。
電話を切ってからもじんわりと温かい気持ちが胸を包んだ。










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