そんなヒーローなら、いらない.




突然、離れた距離。

九州…なんか行ったことも無い俺は、名前の決意を目の当たりにした時、何も言えなかった。ただ情けなく、なんでと問うだけ。

名前の中にある夢を初めて聞かされて、なんで何も言わずに決めたんだよって、そうやって心の隅で名前の事を責めた。

「漢らしいヒーローになったら、迎えに行くから待っててくれ…か。」

あの日、名前に言った言葉を確かめるように呟く。
ヒーローになって、実務経験を積んで。
それなりに名前が知れるようになっても、俺の憧れには全然及ばないまま。
まだ、迎えに行くには足りない。

早く迎えに行けるように、ガムシャラに戦って守ってをしていく内に。
ーー今横たわる現実の距離を近づけるための行動が、いつしか距離を作っていた。

「待たせるばっかで、会いに行こうともしなかったし。連絡だってそんなに…だもんな、」

『そろそろ自然消滅かなって思う頃合いにこの報道…もう、名前は終わったと思ってるんじゃないの。』というアイツの言い分は最もだ。

こんな不器用で好きな女一人幸せにするのすら儘ならない俺よりも、きっと名前を幸せにする男は幾らでもいる。

今すぐ会いに行きたくても、出動要請が有ればそちらへと動いてしまう体。
二度と救えなかったと後悔するような奴にはなりたくない一心で、ここまで来たのだから、当然だ。




強盗犯の捕獲、人質の解放…事件が解決し、事後処理に回っていた。

「おい、クソ髪。」

「おう、どうしたばくごー?」

そういや、今日は爆豪も出動してたんだっけ。
旧友がいることに意識が向かないって、どんだけボケてんだよ、俺。

「名前で呼ぶなや。…テメェ、最近休んどんのか。」

「…調子悪そうに見えたか、」

最近どの現場にも居やがるからだ、と言う爆豪に、そうか?ととぼけて見せると舌打ちをされた。

「わかりやすく何かありましたって顔してんじゃねーぞ、誤魔化してぇんならな!」

頭を思いっきり小突かれて、星が見えたような気がした。相変わらずの暴君具合に、なんだか自然と頬が緩む。

ほんと爆豪も丸くなったもんだ。俺の事を気にかけて、こうやって声をかけてくるなんて。学生時代では考えられない。彼女の影響もあるのかもな、なんて思っていると何ニヤニヤしとんだ!と怒号を浴びた。

「なぁ、爆豪はさ、」
 
…やっぱ、なんでもねぇや!と言うと、爆豪はなっがい溜息を吐いた。心底呆れたとでも言いたげに。

「…言ってみろよ、うぜぇ。」

「もしもーー自分よりも彼女の事幸せにできる奴が、現れたらどーする?」
 
爆豪はどうするんだろう。
俺はどうすればいいんだろう。
俺の問いに対しての爆豪の反応は、鼻で笑うだった。

「んなもん現れる訳ねーだろ。俺が一番幸せにしてやれる、その自信があっから隣にいるんだろうが。」

「…お前は自信あっていいな、」

「一般女性となんとやらってやつか、テメェが悩んでんのは。」

ギクっと背筋が震える。

「ハッ!せいぜい、当たって砕けやがれ!テメェは最近出すぎなんだよ、ちったぁ凹んで引きこもってろ!!」

爆豪なりに身を案じてくれたんだろう、確かに体にかなり疲れは溜まっている。

「…目覚めたぜ!ありがとな!」

背中に声をかけると、爆豪は軽く手をあげた。漢らしいな、アイツは。


ーーもう俺は後悔したくねぇ。
それはヒーローとしてだけじゃなく、名前の彼氏として、漢としても。
自分の好きな女一人幸せにできねぇで、何が漢だ。何がヒーローだ。
そんなヒーローなら、いらない。

俺がなりたいのは、ただ後悔のねぇ生き方ができるヒーローだ。






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