きっと変わってしまった.




「迎えに行く!」

その声を頭の中で反芻する。
毎朝、目覚める度にルーティンと化しているこの儀式。
体を起こせば、シャラ、と今日も腕に光るのはあの時にもらったブレスレット。お守りがわりにずっと付けているそれは、少し錆が入ってしまっている。

関西技術大学サポート器具開発技術研究科。
大学の所在地である大阪は、高校時代を過ごした九州とは大分街並みが異なる。
カーテンを開ければ、良い意味で雑多な雰囲気の街が広がる。

「昨日のMVPは烈怒頼雄斗!!都内某所でのバスジャック犯を捕らえ、その活躍は目覚ましいものでした!!」

今日もテレビをつけると、ヒーロー達は画面の中で戦っている。

「…鋭次郎、活躍してるな。」

彼の姿をテレビで見るようになって、何年目だろう。お互いに夢に向かううちに、会う事は勿論、連絡も減っていった。
今じゃ、鋭児郎の近況はメディアによって知るくらいだし。



「お、名字ちゃん!こんにちは!」

「ファットさん、今日もお邪魔してます。」

「邪魔すんなら帰り〜!」

大阪ジョークとともに、ボフボフと柔らかい手で頭を撫でくり回される。研究のために事務所に入り浸っている私に、いつもおやつを持って来てくれるファットさんは優しい。

「名字ちゃん、もう内定決まったんやろ?絹井さんとこやって?」

「はい、おかげさまで!例の開発素材を評価して頂いたので…」

「しっかし、俺の個性から素材開発のヒント得るなんてなぁ〜!!」

与えられたダメージを吸収し、跳ね返す。その個性は私が思い描いていた、まさに理想そのもので。

「でも、まだまだ改善の余地有りです。ダメージの吸収率と、素材の加工の効率化、それに…」

ムズいムズい!と私の話はファットさんに切り上げられてしまった。

「それよか、恋バナとか無いん?華の女子大生やん!」

恋バナ…鋭児郎の顔が頭をよぎる。
ええ人おらんの?という言葉に曖昧に微笑みを向けるしかない私を、
鋭児郎は迎えに来てくれるのかな。

「烈怒頼雄斗さんが、熱愛かという噂が出ていまして…お相手はまだ定かではありませんが、婚約寸前とのことで…」

鋭児郎の近況はメディアによって知るくらい。私は何も知らない。
お昼時のワイドショー、芸能リポーターが鼻息を荒くして語る話題。

「おお、この子俺んとこにインターン来とったんよ!はぁ〜熱愛報道されるようにまで…立派になったなぁ…」

ほんと、ですね。絞り出した言葉はうまく声に乗らない。

「…わたしもそろそろ良い人見つけないと」

「ここに大阪一のイケメンが居るで?」

「あはは、ありがとうございます。」

上手く笑えているだろうか、そんな事を考える余裕があるくらいだから、きっと大丈夫。

ブレスレットの金具を緩めて、そっと机の上に置けば、ハートのチャームに亀裂のような傷が入っているのが見えて。

潮時、なんて言葉を思った。






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