また会う日まで.
文化祭で見た、サポート科の作品の数々。 目指しているのは、サポートアイテムの素材作りだけれど、同じ歳の子達が夢に向かってリードしている姿は、私を焦らせた。
せめて、自分にできる事をしよう。 そう思って行動すれば、必然的に図書館や進路指導室の常連になった。
「…無理、ですか。」
「そう。この高校には普通科しか無いし、サポート器具の開発技術を学ぶ大学の受験に必要な単位が得られないの。」
サポートアイテムの開発技術には、専門的な知識が必要で。この高校では、その知識が得られない…そう言われたのは、三者面談での事だった。
母と2人の帰り道は、静かだった。 最近、私が勉強に打ち込んでいることを知っているからか、母は考え込んでしまっているみたい。
「…他の学校に、編入してみる?」
母の言葉に耳を疑う。 編入、その単語が頭によぎらなかった訳ではないけれど…そんなに簡単に、それに見つけたばかりの夢にーー
「お母さんね、実は調べてたの。編入できる所は、私学になるけれど…四国、関西になるかな、九州にも一つあるんだけど…そこは試験がかなりの難関らしいからね…」
「なんで、そんなに、」
「なんでって…名字が今までこれをやりたいって強く言った事なかったじゃない。応援したいの。」
母が微笑む…けれど眼差しは強く、まっすぐだった。
そこからは、学校調べと試験勉強。 第二志望は大阪、第一志望は九州に決めて、ただひたすらに。 学期末に行われる試験を受けてーー今日が発表の時。
「もしもし…」
『おう、久しぶり。』
文化祭から会うことも、ろくに連絡することもなかった鋭児郎の声を聞くと、体に走る緊張感が和らぐ。
『…どうした?なんかあった?』
鋭児郎には、編入試験を受けることは言っていない。 スピーカーフォンにして、高校から来た書類の封を切る。
「言いたい事が、あって。」
開いた三つ折りの紙には、合格通知書が入っていた。 …あぁ、言わなきゃ。
「…私、九州に行く。」
『九州?』
「うん。九州の高校に編入するの。だから、鋭児郎とは離れ離れになる。」
なんで、といつもとは違う、小さな声が鋭児郎から溢れた。
「…私、鋭児郎達が使うサポートアイテムに関わる仕事がしたいって思ってて。そのために。…ごめんね、言ってなくて。」
『…俺には言えねえ理由があった?』
静かで、少し責めるような…それでいて切なげに鋭児郎が言う。
「ううん、きっと私が勝手に後ろ髪引かれちゃうだろうから、決まるまで言わないって決めてた。」
鋭児郎の鼻を啜る音がして、涙の気配を感じる。 ごめんね、ごめん。
「鋭児郎は、絶対に素敵なヒーローになる。私もきっと…いや、絶対に鋭児郎を守れるような人になるから。」
ごめんね、ばいばいーー続けようとした言葉は言えなかった。
『迎えに行く!』
鋭児郎に遮られて。
『俺が漢らしいヒーローになったら!名前の事迎えに行くからっ、待っててくれ!』
簡単に会えない距離と、時間。 高校生の私達の前に大きく横たわる現実なんて関係無いと言うように。
『…うん。』
頷けば、溢れる涙。 通話終了を知らせる通知音の後に、新着メッセージを知らせるバナー。
ーーがんばれ、応援してる。
涙を拭えば、シャラリとブレスレットが音を立てた。
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