きみの色.
「名字さん、よかったら一緒に雄英の文化祭にいかない?」
絹井さんから突然きた電話。 久しぶりだけれど、とても元気そうで安心する。
「サポート科の作ったアイテムを、来賓として見に行くのよ。同伴者を一人連れて行って良いって言われたけどさ。うちの連中は納期が迫ってるから、一人で行ってこいって言うのよ。」
納期が迫っているのに、絹井さんは大丈夫なのかな。
「雄英のサポート科とのつながりって結構業界内でも重要だからさ。行かない訳にもいかなくてね。でも、あそこの校長話長くて。一緒に来てくれると助かるんだけど…どうかな?」
雄英の文化祭は、今年は例年よりも厳重警戒だそうで。生徒の家族や来賓だけにチケットが配られると、鋭児郎は言っていた。
「でも、本当に私でいいんですか?」
「えぇ。だって、名字さんの学校は普通科しかないし、サポートアイテムを見たり、触れたりすることないでしょ?名字さんの勉強にもなって、私の校長避けにもなるって一石二鳥じゃない。」
絹井さんは、よっぽど雄英の校長に捕まりたくないんだろう。必死さが伝わる。 私にとっても、決まった夢に向かうためにプラスになるし、絹井さんには恩がある。
「そうですね。お誘いありがとうございます。ぜひ、ご一緒させてください。」
「いーえ!こちらこそ!」
数日後、絹井さんとともに待ち合わせをして。 手荷物や軽いボディーチェックなんかを受け、校舎に足を踏み入れる。
サポート科の展示は校門から近いところにあるらしい。慣れているのか、迷いなく進む絹井さんについて行くと、開けたところに、大型のロボットのようなものが見えた。
「うわぁ…」
「ここまで大きいのは珍しいわね」
サポートアイテムというより、このアイテムが単体で戦えてしまえそうだ。 この作成者は、数多くのアイテムを出展しているようで、いくつも作品が並んでいた。
「あなたと同じ学年の子みたいね。すごい熱量だわ。」
「同じ歳…すごい…」
その人以外が作ったものも、絹井さんと一緒に見てまわる。 素人目でも、どれも完成度が高いのがわかる。
所々で、絹井さんの会社が作った素材を用いているアイテムも見られた。
「私達が作るのは素材だけれど…アイテムについての知見は深い方がいいわ。加工の仕方なんかも考えなきゃならないもの。」
「おそらく、このアイテムに使うなら私の会社の素材の方が効果は上がるけど。うーん…加工が難しいからこの形にはできないものね、要改善だわ。」
学生が作ったアイテムから、絹井さんは会社の素材について考えていた。 絹井さんの熱量も相当なものだ。
アイテムを見終わった後。 私の中で、何かをしなくちゃという気持ちが湧き上がっていた。
絹井さんはサポート科の先生に挨拶をして帰るらしく、そこで別れた。
「あなたは会いたい人いるでしょうから、行ってきなさい。」
バッチリとウィンクされて、鋭児郎に連絡をとる。 今いる場所を聞かれて、そこで待っているように言われた。
「一人で他校って、なんか緊張する…」
雄英って、やっぱり広いなぁ。 ヘタな大学よりも広大な土地。綺麗な施設。 私の偏差値では無理だけど、一緒に高校生活を送るのも楽しかったかもしれない。
「悪い!待たせたな、名前!」
「うわっ!」
ガバッと抱きつかれ、驚く。 鋭児郎ってこういうのするタイプだっけ。
「鋭児郎、ここ外…」
「あ、悪い!!その、嬉しくて…つい。」
短い眉毛をしゅんとさせる鋭児郎に、怒ってないことを伝える。
「それより、友達とかはよかったの?」
「おう。はよ行ってこいって、爆豪が。」
爆豪君。よく鋭児郎の話に上がってくる彼に感謝しながら、何気ない会話を楽しんだ。 文化祭では、ステージをしたらしい。 見てみたかったなぁと呟くと、DVDを作ってる友達がいるらしく、コピーをもらってきてくれると言ってくれた。
「あのさ!俺、名前に渡したいものがあるんだけど…もらってくれるか?」
腕を出してほしいと言われて、言われるがままに腕を出す。
「目、つぶってくれ!」
「これでいいの?」
手首に触る感触。少し冷たい。
「開けていい?」
「おう!」
目を開けると、手首を彩る華奢な金色。 真ん中には赤いハートのチャームがあしらわれた、ブレスレットが揺れる。
「今日、名前に告白された日なんだ。記念日っつーの、あんまり漢らしくねぇかもだけど…。俺、彼氏らしいことそんなに出来てねーなって思って。」
照れを誤魔化すためか頬を掻く鋭児郎を見ていると。 視界が霞んで、雫が落ちた。
「うぉっ、き、気に入らなかったか?」
「ううん、嬉しいの。…ありがとう。」
鋭児郎が、親指で私の涙を拭う。 その仕草一つに愛しさを感じて胸がいっぱいになる。
「どうしよ、去年こういうのしなかったから…私なにも用意できてない。」
「いーよ俺があげたかっただけだし!それに名前にはいつも貰ってばっかだぜ、俺。」
そんなに頻繁に物をあげている訳じゃないのに、鋭児郎は満足気に微笑む。
「名前がいるから頑張れんだって。いつも言ってるだろ?」
「俺さ、お前に応援されるのが一番力湧くんだ。」ーー前に鋭児郎が言ってくれた言葉が頭に浮かぶ。
「だから、受け取ってくれ。」
私の頬の曲線に沿って、鋭児郎が触れる。 なんだかくすぐったくて、思わず笑みが溢れた。
「これ、鋭児郎の色だね。」
チャームの部分を手に取ると、少し暗めの赤色が揺れる。
「…ちょっと恥ずいけど、意識した。」
目をそらして、小声で告げられたこの言葉を。 私はこのブレスレットを見るたびに思い出すんだろうなと思った。
「鋭児郎、大好きだよ。」
「ぜってぇ、俺の方が名前のこと好きだ。」
「もー、なんで張り合うの?」
「なんとなく…」
こんなくだらない言い合いだって、笑い合ったことだって。 きっと鋭次郎の色をした赤色が、思い出させてくれるだろう。
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