答えはずっとシンプルで.
研究所からのメールを待って、こまめにメールチェックをして数日。 別の便りを告げる通知音が鳴った。 インターンが終わったという内容は、鋭児郎からではなく、先日会った芦戸さんからだった。
『切島が怪我をして入院しているから、お見舞いに行ってあげて欲しい。色々あって落ち込んでいるみたいだから』ーーそういう旨のメッセージは、なぜか手に力を込めさせる。
……なんで鋭児郎の入院を芦戸さんが知っていて、私が知らないんだろう。 当たり前だ。同じ学校だし、寮で暮らしているのだから。今は鋭児郎の家族よりも、雄英の子たちの方が鋭児郎に近いくらいなんだから。
なんとも言えない気持ちを抱えながら、病院に行く。 受付をして病室の前まで行くと、足が止まった。 会うのは久しぶりだ。心臓が痛いくらいに早鐘を打つ。 ノックをしようとするのに、頑なな体。 深呼吸をして拳を握り直した所で、扉が空いた。
「あら、女の子。」
「…こ、こんにちは、」
2メートルは超えているであろう図体。 関西訛りのイントネーションで、その人は続けた。
「女の子来たで!!環か?切島君か?見舞い来たんやろ?入りっ!!」
「あ、えっと…お邪魔します。」
久しぶりの再会で緊張していたのも束の間、変にほぐれた緊張は体を楽にする。 病室に入り、目に入ったのはミイラのような姿の鋭児郎だった。
「うぉっ!?名前!?」
「なんや、切島君のお見舞いか。お嬢ちゃん、もしかして切島君のツレってやつかいな!?きゃー、甘酸っぱ!ええなぁ!」
「ファット…誰もが皆コミュ力の塊ではないんだ…そっとしておく優しさが必要だろう…」
同室の方々がお話ししている間に、鋭児郎のベットの横にある椅子に腰掛ける。 大柄の人は、便所ついでに売店行ってくるわぁ!と大きな声で宣言して出て行った。 お隣のベットの人も、カーテンを閉めてくれて、さりげない気遣いを感じる。
「久しぶり、だな。」
「うん、久しぶり。」
「どうしてここに…?」
「芦戸さんが教えてくれた。」
少し刺が入った言い方をしてしまった。鋭児郎もそれがわかっているのか、口をつぐむ。 沈黙。 鋭児郎との間の沈黙は嫌いじゃなかったけど、今は気まずさを感じて、居心地が悪い。
「怪我…痛い?」
「いや、痛み止めで引いてるけど…っ!ごめん!!」
突然の謝罪は、病室に響いた。隣のベットからガタッという音が続く。
「強くなるって、約束したのに。こんな怪我して、ごめん…。」
唇を噛み頭を下げる鋭児郎の姿を見て、なんだか既視感を覚えた。 ……私、鋭児郎に謝らせてばっかだ。 違う。そうじゃない。 心配を理由に責めるばかりじゃなくて、もっと違う言葉があるはずだ。 信じて待ったなら、帰ってきた時には?
「ありがとう。」
包帯だらけの体を抱きしめるのは怖くて、そっと手を重ねた。
「…ヒーローとして、誰かを守ってくれたんでしょ? ありがとうだよ。」
鋭児郎が目を見開いた。少し目蓋が震えている。 あぁ、なんだ。私が思ってたよりも、答えはずっとシンプルだった。
「でも、怪我のこと黙ってるのとかは嫌だよ。これからはちゃんと言ってね?」
約束、と小指を差し出すと、鋭児郎は身を乗り出して、包帯だらけの腕で私を抱きしめた。
「ぜってぇ守る。約束も。名前も。」
「じゃあ、鋭児郎のことは私が守る。」
耳元で宣言すると、鋭児郎がフッと笑って「なんだよー俺に守らせろよー」なんて涙声ながら気の抜けたように言う。
「守られるだけじゃなくて、守りたいの。ヒーローのヒーローになって見せるんだから。」
自分に言い聞かせるように言う。 鋭児郎みたいにすぐにはなれないけれど。
いつかは、鋭児郎が…いや、ヒーローが。 こんな傷だらけにならなくても良いように。 ヒーローのヒーローになるんだ。
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