私はそんなに弱くないから.
「え、高校は兵庫にいくけど。」
「…は?」
角名倫太郎とのお付き合いは、中学校三年生のころまで遡る。幼馴染であり、ずっと好きだったという気持ちが実って、心底浮かれていた私。
そんな私にとって衝撃の一言を、この男は、さらっと言ってのけた。
高校どこにするー?私達、偏差値もおんなじくらいだし、地元の私立いいよねー、あの駅から近いとこ。 一緒のとこにしない?と、誘ったら、もう高校は決まっていると言い放たれた。
「え、兵庫?兵庫、引っ越すの?」
兵庫?HYOGO? 高校なんて県から出ること、ほとんど無い。大体、県内で、割と近くて、偏差値が合ってて。あとは制服とか、選ぶ基準は、そんくらいでしょ?
「ううん。バレーで特待来てるんだよね。稲荷崎ってところ。言ってなかったっけ?」
「聞いてない!!!」
「…じゃあ、今言ったからそれで。」
めんどくさいことになると、長年の付き合いから悟ったんだろう。倫太郎は、そそくさと自分の家に帰って行った。 特にそれ以上の説明もなく。私が両親に兵庫に行きたいと言ったとて、意味もなく。 私は地元の高校に。倫太郎は兵庫の稲荷崎という高校へ。
問答無用で、遠距離恋愛が始まったのだった。
それからの私は、健気なものだった。 部活には入らずにバイトを始め、倫太郎に会いにいける費用を貯めた。倫太郎は、バレーばっかりで、帰省してもゆっくりはしない。一日家族と過ごして、もう一日私と過ごして。そしたら寮へと帰って行ってしまう。
それなら私が会いに行くしかないじゃないか!! オフがある時に会いに行く。門限までには帰ってしまうけれど、会える時間のためならお金は惜しくない。 倫太郎は、日々の連絡はまぁまぁマメな方だった。一日一回は連絡してくれる。頼めば写真付きのメールもある。それでも、実物には勝らない。
「名前って、健気だよね。彼氏、兵庫だっけ?遠距離とか、2年になっても続いてるって思わなかったわ!」
高校も進級し、2年生になった。 角名との付き合いも2年。遠距離歴も2年。
「頑張ってるからね!倫太郎とは、ちっちゃい頃から一緒にいるし、ちょっと離れるくらいへーき。」
「強いなー、そんなの寂しくて死ぬ…」
友達は、机に伏せて死んだふりまでして言った。大袈裟だなぁ…。確かに、寂しいことも沢山ある。 けれど、大丈夫だ。あと少しで私の誕生日。いつもは嫌がる電話もしてくれるかもしれない。 いつだったか、誕生日には会いにきてくれるとも言っていた。そんな近い楽しみがあるから、私は寂しさを乗り越えられる。
そう、思っていた。
「今度の日曜、帰ってこれる?」
そう送ったメールへの返信をみて、私の心はいとも簡単に折れてしまった。
「無理だよ。連休でもないし、帰省する用事も無いんだし。」
…え?一応彼女の誕生日、だよね。 会いに来てくれるっていってたのは、倫太郎だ。 帰省する用事にもならない、無理…そんな言葉を投げられて、平気なほど強くない。
でも、でも…日曜もきっと練習があるんだろう。大事な試合の前かもしれない。大丈夫、どうにもならないことだってある。それに、忘れているフリかもしれない。
私も、去年の倫太郎の誕生日はサプライズで会いに行った。忘れているフリをして、さりげなく聞いた欲しいものを買いに行って。
バチン、と自分の両頬を叩いて、気合を入れる。 弱気になっちゃだめ。大丈夫、私はそんなに弱くない。自分に言い聞かせた。
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