リボンを解いて.
初めてカップルっぽいラブラブ…みたいな雰囲気になったかと思えば、倫太郎が突然立ち上がって自分のスポーツバッグをガサガサと漁りはじめた。
「あ、あった。遅くなったけど…おめでとう。」
「ありがとう。」
包装を見せられて、嬉しい…!と感動の意を表そうとすると、倫太郎がその包装を勝手に解いていく。 いや、私にあけさせないの?と思いながらも背中ごしに待機している私の手を取って、倫太郎は自分の手を重ねた。 大きな手が私の手を覆って、指に触れる。シャラ、という音と一緒に、透明の輝きが揺れた。
「これ、似合うと思ったんだよね。」
「えー、かわいー…」
さっきまで、何してんの?と感じていた疑問はどこかへと飛んでいった。 中指に通された指輪は、ゴールドのチェーンを、ガラスのモチーフが飾っている。柔らかい曲線を描くガラスが、光を反射してキラキラと輝いた。
「指輪、とか…シロツメクサのやつぶりだ。」
「あー、名前作るの下手だったよね。花冠とかも俺が作ってあげてた。」
「倫太郎はザリガニ逃してばっかりだったじゃん。」
「池に落ちた名前を助けたこともあった。」
これ以上は、私の黒歴史が掘り返されてしまう。それは耐えられない。口を噤めば、倫太郎が心底嬉しそうに笑った。ドSだ。
「てか、さっきから良い匂いする。なんか手から甘い感じの。」
「甘い匂い…?ハンドクリームかな。」
「珍しいね。あんまりこういうの匂い付き買わないじゃん。」
あっ!と、背筋が震える。これは誤魔化すべき…? よりによってつけてきてしまったのは、笹野さんに貰ったハンドクリームだった。
「うん、ソウダネ…気分転換…かな」
「誰から貰ったの?」
「そ、そのー…」
倫太郎の笑っているようで笑っていない瞳に怯んで、笹野さんのことを話してしまった。 バイト先の先輩であること、ハンドクリーム誕生日に貰ったこと、実は倫太郎と拗れている間に告白されたこと…諸々を話すと、倫太郎は依然として笑みを崩さなかった。ふーん、という相槌が怖い。
「…怒ってる?」
「いや、怒ってないよ。」
倫太郎は、私の中指に光る指輪のチェーンをゆっくりと緩める。もしかして、没収?と焦っていると、そのまま倫太郎は、指輪を取り上げてしまう。
「や、やだ!」
「ちーがうって、ほら、もっかい手出して。左ね。」
言われた通りに手を出せば、倫太郎がさっきと同じように手を重ねた。 そのまま、チェーンを通したのは、薬指。私の薬指に沿うように、チェーンを調整していく。
「これはチェーンでどの指にも合わせれるやつでさ。ここに着けてれば、復縁っていうか…上手くいってんだなってわかるじゃん。」
「…そうだね。」
「なに、顔あっか。照れてんの?」
うるさい、と言ってはみるけれど、顔が熱くて、絶対誤魔化せてないのがわかる。倫太郎の笑っている顔が証拠だ。
「まぁ、別にハンドクリームは使ってていいよ。その上にこれを着けたらいいと思う。」
笹野さんから貰ったハンドクリームの上に、倫太郎からの指輪。なんだか、とっても…。
「…倫太郎、性格悪いね?」
「なんのことだか。」
倫太郎の独占欲に触れるのは初めてで、くすぐったいような変な優越感が湧いた。 幼馴染とはいえ、倫太郎にこんな部分があるなんて知らなかった。なんだか、倫太郎について、私はまだ知らないことばっかりだ。
これから、もっと倫太郎のことを知っていきたいなと思いながら、倫太郎の謎めいた瞳をじっと見つめる。私のぽかんとした顔が映っていて、笑えた。
prev next
TOP
|