あかんよ.




「練も来てたんか。ここの紅葉が綺麗やったって監督言うてたもんな。」

「せ、せやな。」

あかん、こんの老夫婦…考えること一緒すぎん??
思わず頭を抱えたくなる。この後どうするんや?とか、そんな話をしている二人。その隣で気まずそうに視線を彷徨わせている信介の彼女と、目があった。

「苗字さん、私服かわいいね。」

「あ、ありがとう…そっちも、なんや女の子らしくて、ええな。あたし、そんなん着られへんから羨ましいわ。」

…うわ、自分でも嫌な言い方やなって思う。
素直に褒められへんの、と責められてもしゃーない。
信介の彼女は、あたしにとってコンプレックスの塊みたいなもんや。女の子らしい見た目、柔らかくて人当たりのええ性格。全部、正反対。

「お前らも、この後は美術館行くんか。まぁ、ここの周りそんくらいしか無いもんな。」

信介が、マップを見ながら言った。どうやら、今回の予定は全く一緒やったらしい。
どないするんやろ、そんな微妙な空気が流れる。一緒に行動せんとここで別れるのも、それはそれでおかしいし。信介らと大耳は同じクラスや。それなりに仲ええんやろなと、感じる。多分、一番の異物はあたしな訳で。

「あたし、なんやアウェイな感じするし、ここで帰ろかな!丁度駅前で女バレの子らが遊ぶ言うてたから、そっち行くわ。」

「苗字が帰るなら、俺も「あ、あの!よかったら、4人で回らない?大耳と苗字さんも美術館見に来たんでしょ?私達も一緒だし、せっかくだし…」

大耳の言葉を遮って、信介の彼女が言った。
二人がええなら、と信介も頷く。あたしは、何も言えずに、切り替えるしかなかった。

「ええの?カップルと一緒なんて、照れてまうわ。甘えさせてもらおかな。」

何も気にしてへんで、と言わんばかりに言ってみせた。
こういうのは、割と板についてる。他人からは姉御肌、みたいな言い方をされがちで、自分でもどちらかと言えばハッキリした性格やと思う。
強がって、平気なふりをしてみせるのは、得意な方や。

「あかんよ。」

突然、大耳が私の手をぎゅ、と握った。力加減がおかしい。ちょっと痛い。

「な、何が?」

「あかん。俺は名前と出掛けるの楽しみにしてたんやで。き、昨日は…時間遅れたらあかんて、十個くらいアラームかけたし。アランにうるさいて怒られてんで。服もめちゃくちゃ悩んで、角名に選んでもろて…」

「練、めちゃくちゃ楽しみにしてたんやな。」

「ご、ごめんね!大耳!私達、知らなくて…」

大耳の発言に、信介は愉快そうに、彼女は慌てて。
あたしは、どんどん顔に熱が集まっていくのを感じながら、黙ることしかできなかった。

「そういう訳やから…ごめんな二人とも、今回は別行動とさせてもらうわ。」




そのまま、大耳はあたしの手を引いて、来た道を戻っていった。
手が、震えている。あんなん、大耳のキャラとちゃうやん。絶対、恥ずかしかったはず。

「…なぁ、大耳?」

「すまん、今はちょっと無理、恥ずかしすぎる。よう話せん…」

「う、うん。それはええんやけど、…その、そろそろ手痛いなぁっていうか…」

「っす、すまん!力加減、できてなかった!?」

大耳が、慌ててパッと手を離した。
さっきから、らしくない。普段は涼しい顔をして、落ち着いた大男が、テンパって、あわあわとしている。
そんな頼りなさが、なんや可愛らしくて堪らんくなった。

「ええよ、もうちょっと優しく握って。」

「…ええの?」

大耳がおそるおそると握った手は、駅に着いて、電車を待っている間も、離されることは無かった。






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