中途半端.
あたしは、ずっと中途半端や。
中学生の時には、信介のことを好きなんやろうなという子が居れば、「あんな、あたし信介のこと好きやねん。」と先手を打つように言っていた。 自分の顔がそれなりに整っとること。威圧感のある身長、はっきりとした性格。それらのお陰で、恋敵を黙らせることができてしまった。
信介に彼女ができてからも、彼女に嫌われる女がしそうなことをしてきた。 彼女がおることなんて関係ない。そんな振る舞いをして。 そんなことをするくせに、信介に告白することは怖くて、できなかった。信介の仲のいい女友達、キャプテン同士、そんな関係性を崩すのが怖かった。
告白しても、…結局は、信介に振られてもうたけど。
…そんな時に、都合よく現れた大耳の好意に、甘えてしまっている。 まだ信介を好きで気持ちに応えられないのなら、遠ざけた方が、大耳のためになるはずやのに。甘えて、その狡さに気がついた時に、慌てて突き放した。
ーー「… なぁ。やっぱ俺、避けられてる?」 大耳の傷ついた顔を、勝手に反芻してしまう脳の動きを止められたらいいのに。
「名前、最近調子ようないな。らしくないで?」
せっちゃんに言われて、どきりとした。 平静を装って悪かった点を尋ねれば、レシーブの返す位置が雑、スパイクの時に飛べてへん、ヤクルトジャンプになっとる、インとアウトの判定が遅い…と淡々と挙げられて、それが思い当たるもんばっかやったから、落ち込む。
「なんかあったんやろ。名前はわかりやすすぎ。」
「ごめん…」
「ええよ。練習はスムーズに行くように気配ってたやん、主将らしくなっとる。…なんか抱えとんなら話聞くし、一緒帰ろ。自主練は無しや。」
せっちゃんは、さすがの観察眼やな。 主将のあたしを一番に支えてくれる副主将で、自慢のセッターで、誰よりもチームメイトを見ている。
「せっちゃん、ありがとお…」
「主将様を支えるんが、仕事やからね。」
普段はぽわぽわした言動をしとるのに、せっちゃんは誰よりもかっこいい。 主将として厳しくあるべし、としているあたしとのバランスを考えているとのこと。
「で、何に悩んどんの。」
「…その、好きやって言われてて、応えられへん時どうしたらええんかなって。」
あたしがそう言えば、せっちゃんが目を丸くした。
「名前がそんなことで悩むん、珍しいな。これまで告白されても好きやないから無理の一択やったやんか。」
「…だって、信介のこと好きやし。」
「だから、や。北君の一筋やったのに、なんで悩んでんの。」
「信介には、振られてん。」
「はぁ?いつ!?」
「前の大会んとき。」
「まぁ、彼女居るもんね。」
せっちゃんは、あたしの肩に軽く触れて、ようやったと一言だけ添えてくれた。 こういうところが、信頼の元やと思う。 「あたし、今他の人から好きやって言われてて。その人と居ったら、甘えてまう。…まだ、信介が好きで応えられへんのに。」
「…中学から好きやったんやっけ、5年くらい?」
あたしが頷けば、せっちゃんは笑った。
「そんなん振られたからって、好きって気持ちがすぐ消えるもんとちゃうやろ。」
「…そう、なんかな。」
「名前は、その人に甘えてまうって言ってた。弱み晒すのが嫌いで人一倍負けず嫌いな名前が、つい甘えてまうって、随分気許してんなぁ。」
「北君には、そんなことできた?」
「できるわけないやんっ!」
信介には、できるだけかっこ悪いとこを見せとう無い。 一年の頃に、一度だけ。泣いてしまったところを見られたことはあるけれど…それ以外、信介には弱いところなんて見せたことは無いはず。
「そんなあんたが甘える相手って。北君とは、違った特別なんやない?」 いつの間にか、せっちゃんの家とあたしの家の分かれ道まで来ていた。別れて、一人。せっちゃんの言葉を、小さく呟いてみる。
「信介とは、違った特別…」
信介のことを思い浮かべてみる。 どこか苦しさを感じる、この気持ちは恋やと思う。苦しくて、それでも追いかけていた。 何年も好きで、その気持ちはいきなり消えてくれる訳じゃない。
大耳のことを思い浮かべてみる。 なぜか苦しさが緩むような気がして、会いたくなった。
LINEの連絡先、トークの履歴が少ない大耳のアイコンをタップして、通話ボタンを押した。このボタンを押すのは、信介に振られたあの日以来だった。
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