おかげさんで.
めっちゃ視線を感じる。 女子バレー部主将、身長は170センチほど。男子バレー部レギュラー、190センチ超え。 そんな二人が並んどるんやから、注目されるのはしゃーないことやと思う。
「苗字は何食べるん?」
「…カレー。大耳は?」
「白身魚のフライやな。気に入ってんねん。」
「へぇ。」
おっさんっぽいな、とは思っても口には出さない。 また奢りのプリンが増えるのは嫌や。 大耳は、デザートコーナーで、ごまプリンとほうじ茶プリンを手に取った。そして、そのまま会計を済ませる。
「あれ、あたしが奢るんとちゃうん?」
「ええよ、冗談。一緒に昼飯食べたかっただけやから。口実や、こーじつ。嘘ついたお詫びに、ほうじ茶の方やるわ。」
この男は、サラッと恥ずかしいことを言う。 向かいに座ったら、不覚にも赤くなってもうた顔がバレるかもしれん、と隣に座った。 大耳は、何も言わなかった。けれど、意外やったんか、驚いた顔をした。
「…なに?」
「なんも。」
テーブル席に、並んで座るのは失敗やった。ちょっと恥ずかしい。
「カレー、大盛りってええなーって。」
「女っぽくない言いたいん?」
「ちゃうよ、いっぱい食べる子ってええやん。俺、体でかいし、燃費考えると食べる方やし。どうしても時間かかるんよな。相手と同じくらいに食べ終わらんと…ってプレッシャーが無くてええなって思った。」
「…ちょっとわかる。」
体力つけるためには、食べることも必要。女バレの子らと一緒に食べるときは気にしやんけど、他の女子と食べるときには、量を減らしたりとか、早食いしたりする。 同じ悩みを感じるもんなんやな、と大耳の横顔を見て思った。
「練、お前苗字と食うてたんか。すまん、相席ええか?」
「ええよ。」
「邪魔すんで!苗字さんごめんな!」
声の主は、信介と赤木やった。 邪魔すんなら帰ってーと、お決まりの言葉を返せば、赤木が愉快そうに笑う。 あたしの向かいには、信介が座った。あかん、気まず…。なんであたし、大盛りとか頼んだんやろ。信介に、大食いや思われるのいややなぁ…!
「苗字、」
「ど、どうした?」
「今度の練習の、考えてくれてありがとうな。女バレ、もうちょい時間使ってええで。俺らはその間に半分はロードワーク行くようにしとるから。クールダウンの時間取るし。」
「あぁ、せやな。ありがとう。じゃあ、あと10分もらってもええ?こっちで交代の時のネットの高さだしとくわ。」
「助かる。」
「苗字さんも信介も真面目やなぁ…。昼休みくらい、もっと気緩めようや。ほら、恋バナでもするか?」
うちらが話していると、赤木がため息まじりに言った。恋バナって、今めちゃくちゃ地雷なんやけど!? どうしよ、と大耳のほうをチラリと見れば、大耳が目を細めて苦笑した。
「ほんなら、言い出しっぺからやな。赤木は女バレの…」
「あかんあかん!!ないしょや!!うん、やっぱ部活の話しよ!」
「へぇ、女バレに好きな子おるん?仲介しよか?」
私も話に乗れば、赤木は顔を真っ赤にして首を振った。たしか、せっちゃんが好きなんやっけ?
「ええわ!せや、やっぱり部活の話しようや!苗字も春高まで残るんやろ?」
「そんな照れんでもええのに。うん、今年こそ新山女子倒さな。あの女王の悔し涙見たるわ。」
稲荷崎高校女子バレーボール部は、新山女子に勝てずに、優勝旗をとることはここ5年無かった。今年のインターハイでも、新山女子に負けた。 同学年の女王に勝つこと。それがあたしの目標や。
「かっこええな、」
大耳に言われると、なんや悪い気せん。ほんまにそう思ってくれているんやと、大耳の柔らかい眼差しから伝わる。
「惚れてまいそうやわ。」
「っ!…あほ!」
「厳し。ファンクラブの子に対してみたいに、にっこりしてくれてもええやん…なぁ?」
「そんなもん無いわ、あんたらとちゃうでな。」
「後輩の女子が、ようキャーキャー言うてるで?」
「キャーキャーちゃう!名前センパーイ!頑張ってー!や。ちゃんと応援してくれとんのよ。猿山みたいに言わんといて。あのこらかわええんやから。」
「ふ、苗字はかっこええもんな。」
信介が、笑いながらそう言った。 仏頂面に見えるが、信介は案外笑う。あたしの言っとることがツボに入ったんか、しばらく震えていた。
「…笑いすぎや。」
「ふふ、すまん。つい、な。」
あたし、信介の笑った顔好きやったなぁ。 こんな風に。振られても、なんでもないみたいに話せるなんて思っとらんやった。 隣を横目で伺えば、大耳が同じように笑っている。その笑顔をみながら、この人のおかげやなと思う。
「大耳、」
「どした?」
「ありがと。」
なにが?と尋ねられて、奢ってもらったほうじ茶プリンを軽くかかげた。 匙ですくった柔らかいそれは、ほんのりと甘かった。
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