相変わらずの負けず嫌い.




宣戦布告をしてからというもの、私に残された時間はそう長くないことを痛感する。
卒業まで、あと半年しかない。赤司との接点であった生徒会活動も終わってしまった。

「負け戦な気がする…」

相談先は、緑間君だった。図書館の前、自習スペースとして設けられている丸机と椅子が並べられたスペースは、私と緑間君の集合場所となっていた。
よくここで勉強していた緑間君をみつけて、私もここで勉強するようになったというだけだけれど。

「赤司と別れてはないんだろう。」

「私が勝手に別れ話に頷いてないってだけだよ。…だから、赤司の視界に入るには勉強しかない気がして。」

「俺に勝てない奴が、赤司の視界に入れるわけが無いのだよ。人事を尽くせ。」

「理数は勝てないけど、文系科目は勝ってるし。」

「抜かせ。英語は同点だったのだよ。」

生徒会を辞めて、暇になった時間は全て勉強に費やした。そのおかげか、先日の実力テストの順位は3位まで上り詰めた。1位は言わずもがな、赤司だ。

「赤司の志望校、聞いた?」

「洛山だろう。追いかけるのか?」

こっそり先生に聞いたら、京都の洛山高校だと言われた。京都って…。緑間君曰く、赤司の別宅があるらしい。

「さすがに、」

現実問題、難しい。洛山には寮があるけれど両親が親元を離れるのを許してくれるような理由をつけられるかというと…。好きな人を追いかけるために受験しますじゃ通らない。

「フン、負け戦だな。」

緑間君も認めるほどの負け戦だ。


ーーーー


「赤司君のことが好きです!」

最悪な現場に出会してしまった。昼休みに緑間君に借りっぱなしだった参考書を返そうと体育館に足を運んだ途中だった。体育館裏、告白の絶好のスポットになっているのは何故だろう。

「…すまない。」

赤司がそう答えたことに安堵する。

「どうして?赤司君は、ミョウジさんとは別れたんじゃないの?」

私と赤司は、今は話したり一緒に帰ったりはしていない。当然、周りからも別れたのかと聞かれることが多い。赤司は、なんて答えるんだろう。

「別れてはない。だから、君とは付き合えない。」

その言葉を受け入れられなかったんだろう、女の子は何も言えずに走って去っていく。
その背中を見送って、私も去ろうと足を動かすと、パキッと枝の折れる音がした。

「盗み聞きとは、悪趣味だね。」

「…たまたま、緑間君に用があっただけ。盗み聞きじゃない。」

「別れたのかを聞かれた時には、あんなに息を潜めていたのに?」

意地悪く赤司が笑う。そんな時から気付かれていたのか…と負けた気分だ。

「別れ話は聞かなかったことにされたからな。利用させてもらうよ。部活も終わった今じゃ、この断り文句が一番使えるんだ。」

性格がお世辞にもいいとは言えない。
赤司が、体育館の入り口にある階段に腰掛ける。その隣に腰掛けようとすれば、上等そうなハンカチを敷いてくれた。躊躇っていれば、座るんだろう?と首を捻られ、促される。

お礼を言って腰掛けて、赤司の肩に自分の肩を寄せた。
特に赤司からの反応はない。拒まれないのをいいことに、そのままにしてみる。

「最近、僕の進路を嗅ぎ回っているそうだが。」

「…赤司に聞くタイミングがなかったからね。」

「口実にするなら、内部進学ができる大学がある。私大になるが、実績もある大学だ。不自然ではないだろう。」

言外についてこいって言われているように感じるのは、気のせいだろうか。

「ついていっていいの?」

願うように口に出した。赤司の顔が、僅かに傾いて近づく。片目の金色の輝きが、閉じた瞼の裏に浮かんだ。
勝ち誇ったような顔がむかつく。やり返された。
私の頬がじわじわと染まっていくのがわかる。

「言っただろう、勝つのは僕だ。勝敗が決まる前に、ナマエに離れられては困る。」

負けず嫌いがすぎる。赤司の面白がるような視線を避けるべく、私は膝を抱えて拗ねるしかなかった。






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