あなたの心に存在していたい.




目の前の赤司征十郎は、本当に私の知るものなのかーーわからないけれど、手放したくない。

「それは、私と別れるってこと?」

「そうなるな。もうこれ以上、側に置いておく必要はない。」

「そう。…ところで、私が告白したときに自分が言ったことは覚えてる?俺からは振ることはないって。」

「…それがどうした。」

「赤司に前言を撤回させるなんて、初めて勝った気分になれちゃった。」

赤司の瞳を頑として見つめた。
わずかな揺らぎさえ拾わせてくれない、強い瞳。
負けじと睨みつければ、私の知らない赤司は舌打ちを一つ鳴らした。

「安い挑発には乗らない。」

「私が勝ちたいのは、あなたじゃないから。別れるっていう提案は保留にしてあげるね。」

「…話を聞いていたか?」

怪訝な顔をする赤司が、少し面白くなってきてしまった。大丈夫、私が居る場所は私が決める。もう後ろめたさなんて感じない。

「だって、私のことを好きな赤司が、きっと後悔するもの。」

「…話が通じないな。お前が知っているオレはもう居ない。」

そう言って、踵を返した赤司の背中が遠ざかっていく。
一方的に別れをつげたにも関わらず、家の近くまで送ってくれる律儀さ。なんだか、刺すはずだったとどめを間一髪で逃されたような心地がした。
それが返って残酷で、切なくて、苦しい。

ぐっと目を閉じた。
赤司のいつもよりも明るい色をした瞳を思い出す。

「…私が知ってる赤司がいなくなってしまっても。」

私は、赤司が好きだ。


ーーーーーーー

2学期に入って、ついに生徒会の任期が終わる。

「生徒会長、赤司征十郎。」

「はい。」

壇上に続く階段を赤司が昇っていく。その後ろ姿をぼんやりと眺めながら、これで赤司の隣にいる口実がなくなってしまうと苦しさを感じた。

思えば、この日に至るまで。
赤司の隣に並ぶことは、常人でしかない私には見合ってない舞台に立たされているような居心地の悪さがあった。

「副会長、ミョウジ ナマエ。」

「…はい。」

壇上に並ぶ。横をチラリと見て、去年もこうやって壇上に上がったなと思い出す。あの時よりも赤司の背は伸びた。あまり変わらなかった背丈が懐かしい。一礼をして、次の期の生徒会のメンバーが呼ばれる。誰かの一拍目から始まった拍手が、鳴り止んでからステージから降りた。


始業式だから、午前中に下校だった。でも、家に帰っても何故か落ち着かなくて。忘れ物をしたと言い訳をして訪れたのは、生徒会室だった。扉を開けて、落ち着かなかった理由がわかった。
扉の先に、もうここに寄ることがなくなるんだとなんだか胸の中に隙間ができたような寂しさがあったからだ。
ーーそして。

「赤司。」

「ナマエ、どうした。」

「赤司こそ。」

「俺は、引き継ぎの資料の整理でいるだけだ。もう終わった。」

そう、と返事を返して、窓の外を眺める赤司の隣に並ぶ。赤司は、拒まない。多分、私が居ようがいまいが、どうでもいいのだろう。

「赤司と、比べられるのが嫌だった、劣等感があった。私の存在意義ってなんだろうって。」

「それが、あの日の告白の理由か。」

「辞めちゃいたくなって、赤司に振られたっていう口実がほしかった。」

「…浅はかだな。」

赤司が、冷たく笑う。うん、私もそう思う。あまりにも浅はかな行動だった。赤司はそれに気がつくだろうと思っていた。だって、全てを、未来までも見透かしたような瞳には、私がいくら後ろ手で何かを隠そうとしても、暴かれてしまう気がする。

「だから、やり直させて。私、赤司が好き。」

赤司の瞳が、窓の外から私へと向く。相変わらず、その瞳には温度が消えていた。赤司は、瞬きを一つ落とした。ゆっくりと、得体の知れない時間が流れるのを感じる。

「お前は、機を逃した。」

ドクドクと、皮膚の下で熱い血が流れてる音がする。
わかっていた、そんなことは。今の赤司が私を選ばないことは、知っていた。

「思えば、赤司の背中を追い続けていた2年間だった。それが続くだけ。今のは宣戦布告みたいなものだよ。赤司が私に振り向くのを待つって。」

悠長だな、と赤司が言った。

「追い抜いて、視界に入って見せるくらいのことをしなければ、赤司征十郎を手に入れることはできない。」

「…今のは私の宣戦布告を受けたということでいい?」

赤司は、私の髪を一束掬って耳にかけた。
時間が止まるような気がするくらい突飛な行動だったのにも関わらず、その一瞬はすぐに終わってしまう。

「勝手に言っていればいい。勝つのは僕だ。」

その嫌味なくらい整った澄ました顔を、崩してやりたい。ほんの出来心が湧いた。赤司の肩に手を置いて、自分の身体を引き寄せる。
重なったのはほんの一瞬で、少しずれちゃったなと他人事のように思う。唇の端、僅かに痺れるような感覚がした。

「負けないよ。」

赤司の瞳が僅かに見開かれたのを、私の目はしっかりと捉えた。証明してあげよう、私の存在を。この人の中に認めさせてやる。







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