最悪のタイミング.
「私のこと、好きみたいな…」 「みたい、じゃない。」
ーー告白紛いにも取れる言葉を受け取ってからも、私たちの関係はあまり変わらない。 共に生徒会の仕事をして、たまに一緒に帰る。家に帰ってから連絡をとったりはしない。手を繋ぐのも文化祭以来は無いし、付き合ってはいるが、人から言わせれば初々しいお付き合いが続いている。
「進展とか、無いんですね。」
「まぁ、バスケ部忙しいじゃん。夏休み、最後の大会に向けてさ。」
もう初夏の爽やかさも溶けて、悶々とした夏が訪れを告げていた。夏休みも見えてきている。流石に練習がキツいのか、黒子も最近元気がない。
「ちょっと痩せた?」
「…ですかね。」
「ちゃんと食べてるの?」
「まぁ…それなりに。」
ぽんぽんと背中を叩いてみる。黒子の薄い体は、固い。 あやすみたいなの辞めて下さい、と不服そうだ。
「赤司君は、」
「うん。」
「何か部活のことについて言っていましたか?」
「いや?最近は聞いてないかも。」
赤司との会話には、以前はバスケ部のレギュラーの名前が良く出ていたが、最近は私が話しているのを聞いて相槌を打つことが多くなってきた。
「ただ、元気は無いのかな。私に、赤司が考えていることなんてわからないけれど…そんな気がする。」
黒子が視線をあげた。
その瞳がかすかに揺れていて、何かあったんだろうなと察する。でも、私はそれを聞こうとは思わない。 私が持っている後ろめたさに、赤司が気づかないふりをしてくれているのを、知ってるから。 私たちは、必要以上には相手に踏み込まない。
ーーーー
「黒子の様子はどうだい?」
「黒子にも赤司の様子を聞かれたよ。元気なさそうな感じだった。」
そうか、と赤司が相槌を打つ。話はそこから展開しない。バスケ部、何かあったの?なんて、私は聞けないから。
「もうすぐ、生徒会も引退だね。」
二学期には役員の交代がある。私達は、もう会長と副会長ではなくなる。
「ナマエと僕が、付き合う必要はなくなるな。」
ドキ、と心臓が嫌な音を立てた。突然名前を呼ばれたことに対する高鳴りなんかじゃない。得体の知れない何かに出会った時のような、居心地の悪さからくるものだ。 赤司の表情を伺う。赤司の片目は、いつもと違った色をしていた。思わず、私は歩みを止めた。
「生徒会を辞めるためだったんだろう、あの告白は。僕に振られたから…なんて陳腐な口実を使おうとしたのは面白かった。ナマエがそんな行動に出るのかとね。付き合おうかとオレが返事をしたのは予想外だったみたいだけど。」
差し詰めーー…と赤司が続ける。
「オレはミョウジ ナマエを手放すのが惜しかった。優秀な駒の一つとして。しかし、もういいだろう。任期は終わる。」
赤司に、見透かされていることには気付いていた。それでいて、私をそばに置いているのは不思議だと思っていた。 そうか、赤司に優秀な駒だと思われていたのなら、それは光栄なことだ。 でも、目の前にいる赤司は、何かが違う。
「僕には、お前は必要ない。」
あぁ、最悪なタイミングで気が付いてしまった。 私は、赤司が好きだ。
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