ずるいひと.




帝光祭を終えて、校内は一気に勉強モードに入った。
いつもならあまり人のいない図書室も、今日は席が埋まっている。
私がよく座る席も埋まっていて、今日は図書室の利用は諦めようと、踵を返した時だった。
どん、と誰かにぶつかってしまった。

「っ、すみません」

「悪い、大丈夫か?」

随分と上の方から声が聞こえた。
そういえばぶつかったのも胸元だった。背、高いなぁ。

「えっと、あ、青峰君。図書室で勉強?席は無いみたいだよ。」

1年生の時に同じクラスだった青峰君は、当時よりもずっと背が高くなっている。私だと気づくと、ミョウジじゃねーか!と気さくに笑ってくれた。

「テツのやつ、図書室に集合つってたのに…」

青峰君は携帯を立ち上げると、ため息をついた。

「結局部室かよ。ミョウジも来るか?」

「え、バスケ部の部室に?なんで?」

「勉強しに来たけど、席なかったんだろ。赤司の彼女だし、嫌な顔されねーと思うぜ。俺も、赤司か緑間に教わるより、ミョウジのがいいしな。」

「あぁ、補修対策…」

「うるせ、いーから来い!」


ーーーーー


「ミョウジと会ったから連れてきたわ。」

「どうも…」

バスケ部の部室は、さすが強化部というべきか、広い。
まぁ人数も多いしな、と納得する。
机を陣取っているのは、カラフルな頭をしたレギュラーの面々だった。

「ミョウジに無理を言ってないだろうな?」

赤司が睨むと、青峰君は首をすくめて、着いてきたのは私だと言った。いや、腕引いてきたのそっちじゃん!

「まぁ、いい。ミョウジはここに座るといい。」

赤司が、自分の隣の椅子をひいてくれた。大人しくそこに座ると、じっと視線が集まる。

「赤司っち、ジェントルマンっスね!」

「赤司君、王子様みたーい!」

黄瀬君と桃井さんに茶化されて、恥ずかしい…ていうか、バスケ部の顔面偏差値すごいな。

「じゃ、俺ここな。ミョウジ、頼むぜ。」

「はいはい。」

「えー、ずるいっス!俺だって、緑間っちより副会長さんに教えてもらいたいー!」

「黄瀬、うるさい。ミョウジ、すまないが青峰を頼む。理数は俺が教えるから、文系科目を教えてやってくれ。」

「わかった。」

賑やかな空間で勉強をするのは初めてだ。青峰君の英語は思ったよりも酷くて教えがいがある。問題を解いてもらう間に、私も自分の勉強を始めた。教科は数学。5教科の中では、あまり振るわない。

「…緑間君、これわかる?」

うまく式がでない問いがあって尋ねると、向かいに座る緑間君は、カチャリ、と眼鏡のフレームを上下させた。

「xとy、それにzを加えた連立方程式をたてて、この場合は…そうだな、yイコールの式に組み直すのだよ。そしたら、1番と2番の式がイコールの関係になる。」

「あー、そっか。うん、そこからは大丈夫そう。」

すごく、わかりやすい。解答の道筋がわかったことが嬉しくてぱっと勢いよく顔をあげてしまった。
身を乗り出していたのを忘れていて、緑間君の顔が、思ったより近くにきている。これは、男女の距離としては不適切だ。

「ご、ごめん!」

「…気をつけるのだよ。」

恥ずかしい。緑間君は、赤司とはまた違った端正さのある顔立ちをしている。
ここだけの話になるけれど、私は眼鏡をしている人に、ほんの少し好感を持ってしまう。気になる芸能人とか、街中ですれ違う人とか、目に止まる人は眼鏡をしている。単純かもしれない。

「ミョウジ。」

内心あわあわとしていると、赤司が私の名前を呼んだ。

「なに?」

「集中力が欠けてきているようだし、少し休憩に、売店にでもいこうか。」

赤司は立ち上がって、その場にいるみんなに、何か欲しいものはあるかと尋ねた。
それぞれが飲み物を思い思いに注文した。赤司はメモをとらない。そんなところがちょっとむかつく。
歩き出した後ろ姿についていくと、部室から少し離れた、人通りがあまりない渡り廊下で、赤司は私の指を絡め取った。

「…赤司って、」

「どうした?」

「私のこと、好きみたいな…」

「みたい、じゃない。」

言い切られた赤司の言葉は、すとんと私の胸に落ちてきた。それと同時に、明確な言葉を言わない赤司は、ずるい男だとも思った。






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