三拍子のジンクスを.
その後は淡々と出し物を回った。 赤司はその間にテーブルゲーム系の部活が開催する大会で優勝をコンプリートした。 バスケ部の面々が張り切ってビンゴ大会に参加しているのを見たり、出店で食べ物を調達したり。無難に楽しめた方じゃないかと思う。
一般来場者は帰り、片付けの時間になった。
「衣装は着替えたのか。あれも似合ってたけれど、制服の時の方が落ち着くな。」
「私もこっちの方が落ち着く。」
私たちは、祭りの雰囲気も終わりに近づいているのを感じながら、夕焼けに染まるグラウンドを、生徒会室から眺めていた。 各クラスの片付けのチェックリストの受け取りと確認や、来賓によるアンケートの集計をするためだ。
「ミョウジは、後夜祭はよかったのか?」
片付けが終われば、後夜祭がある。 帝光はマンモス校ゆえに、各クラスが打ち上げをすれば、その人数の多さから近隣からのクレームが入る可能性があるからだと聞いた。
食堂の方々によるドリンクの提供や、模擬店部門の余りの叩き売りなどが並ぶグラウンドで、たくさんのキャンドルを灯し、最後にはワルツを踊る。そんなささやかな催しだけれど、ジンクスなんかもあってロマンチックだと、女子生徒には人気がある。
「上から眺める方が、綺麗じゃない?」
「違った眺めがあるね。」
「赤司は…ほら、あれ、バスケ部。一緒に居なくていいの?」
「あぁ。さっき一緒にやきそばを食べたよ。ジンクスがあるから、ワルツが始まるまえに彼女のところへ行けと言われた。」
「そう、ですか…」
ジンクスなんて、赤司は興味がないと思っていた。 赤司は、チェックリストやアンケートの用紙をトントンと机上でまとめて立ち上がった。
「ワルツが始まったようだね。」
グラウンドに三拍子の音楽が流れ始めた。おそらく想い人と手をとる人、友達同士でくるくると回る人、興味なさげに冷やかす男子、おしゃべりを弾ませる女子。 グラウンドには、温かく、くすぐったい雰囲気が流れていた。
「せっかくだから、どうだい?」
赤司が私の手を取った。帝光祭中、何度か繋いだ手。その感触に馴染んでしまって、小さく力を込めて握り返すと、腰に手を当てられた。
「わ、わたし、踊ったことない!」
「授業でステップは習ったじゃないか。」
音楽の授業で、ステップを図面に起こしたプリントを配られて、三拍子を流されただけだ。その三拍子に合わせて、女の子同士で、くるくる回るような遊びしかしたことがない。
「ほら、大丈夫。」
赤司の動きにつられて、ぎこちないはずの私のステップは案外サマになる。
「上手いね。」
「リードのおかげだよ。赤司がすごいから、私なんか…」
ワルツを踊っているから、私たちの距離はいつもよりも近い。祭りの後の浮かれた雰囲気のせいか、赤司の瞳が柔らかく感じる。
「ミョウジは、自分を卑下するきらいがあるね。」
赤司が、私の腰に添えた手を引き寄せた。瞳の距離が近くなる。それが、責めるような仕草に感じるのは、気のせいだろうか。
「分を弁え、自分のできることをする、というのはミョウジの美徳だ。けれど謙遜が行き過ぎて、卑下になるのは良くない。」
口調は柔らかなまま、けれど凛とした強さがあった。
「君は、手放すには惜しい。自分のことを卑下して、離れていこうとするのはやめろ。」
ワルツの音が、徐々に小さくなっていく。 赤司の瞳は、私から逸れない。完全に音が鳴り終えても、そのままだった。
「…ジンクス、よかったの?」
「手放すには惜しいと言っただろう?」
ーーワルツが終わる時、見つめ合う二人は結ばれる。 そんなあどけないジンクスは、本当になるのだろうか。 赤司の瞳は苦手だったのに、見つめ合えるほどになった私の中の小さな変化が、これから大きくなっていけば…そこまで考えて、やめた。
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