ちょっとしたジェラシー.




「ミョウジさん、緑間君が呼んでるよ。」

昼休み、昼食を食べ終えて教室に戻ると、緑間君に呼び出された。右手の薬指には、私の指サックが鎮座している。

「どうしたの?」

「赤司の機嫌をどうにかしたいのだよ…」

「え、やっぱり機嫌悪いの…?」

なんでだろう。私が何か失言でもしてしまっただろうか…と頭を抱えていると、緑間君の傍から、「あの…」と控えめな声が聞こえた。

「うわ、黒子っ!いつから居たのだよ!」

「昼食を一緒に摂ったじゃないですか。そのまま着いてきてましたよ。」

「相変わらず薄いね、ちょっとびっくりした。」

すみません、と全く反省のない謝罪をする黒子に、ちょっと笑ってしまう。

「おそらく、緑間君だけでは解決に至らないかなと思いまして。赤司君の機嫌がよろしくない理由、わかってないですよね?」

「…なぜか俺に対する当たりが強い気がするのはわかっている。昼休み以前に赤司と接したのは、副会長との接触時だ。俺が何かしてしまったのなら、副会長が知っていると思ったのだよ。」

なるほど、そういう要件だったのか。でも、緑間君は特に何も、赤司の気に触ることはしていなかったはずだ。

「ミョウジさん、赤司君と緑間君との朝の出来事についてお話しして貰えますか?」

「えー…っと、赤司から指サックについて聞かれたんだよね。そしたら、緑間君がラッキーアイテムが無くて、バナナにすべって…散々だから貸してやってほしいみたいな流れになって。でも、緑間君の手は大きいから、指サックが嵌められるかな、と思って手を貸して貰ったの。」

「手を貸して貰ったって、手に触れて…ということですか?」

頷くと、黒子らしくない、深いため息を吐かれた。

「バナナの皮はきちんと処分したのだよ!」

「そこじゃないです。問題は、緑間君とミョウジさんが手を触れたことですよ。」

それの何が問題なんだろう。

「ミョウジさん、赤司君とお付き合いしていることお忘れですか。お付き合いしている方の前で、他の異性に触れるのは…恋愛小説では専らのタブーです。」

「嫉妬ってこと?赤司がするわけないじゃん。」

「解釈違いなのだよ。」

「これだから鈍い二人だと解決しないと思ったんです…。」

赤司が、嫉妬なんてするはずない。それも私なんかに。
完璧で隙がない赤司に、その感情は似合わないと思った。赤司は、その才覚故に嫉妬される側だ。

「とにかく、もう予鈴も鳴る時間なので失礼します…が、赤司君は放課後に生徒会室に寄る予定だと聞いてます。部活に来る前に機嫌をとってくださいね。僕、部活が鬼メニューになったら死んじゃうので。」

黒子のげっそりとした顔を見て、私はどうしたものか…と頭をかかえるしかなかった。


ーーーーーー

「…あ、赤司」

放課後の生徒会室に、一番乗りかと思ったけれど、先客がいた。あぁ、と素っ気ない返事をされて、ちょっとイラッとする。

「赤司、何怒ってるの。」

「…怒ってはない。」

「じゃあ、妬いたの?」

吹っかけるようにそう言った私を見て、赤司はきょとんと目を丸くした。中々見ない表情だ。やっぱり、黒子の思い違いじゃん!恥かいた…。

「ック、アハハ…!」

「なっ、ち、ちがう!!黒子が…!」

「うん、妬いたのかもしれないね。」

赤司は依然として肩を振るわせながら、言った。

「俺だって嫉妬することもあるさ。俺には顔色を全く変えないミョウジが、他のやつに赤面させられてるんだ、妬いても可笑しくないだろう。」

「うそ…」

全部、嘘に聞こえる。赤司が私なんかに嫉妬という感情を寄せるなんて。

「ありえない、」

「そう?俺は、ミョウジが思っているよりも、ミョウジのことが好きだと思うよ。」

赤司は、一歩私に歩み寄って手を伸ばした。その指先がこめかみに触れる。頬にかかった髪を、掬うように耳にかけて。満足気に微笑んだ赤司の一連の仕草は、くすぐったい甘さがあった。






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