指先にご用心.




「ミョウジは、文具集めが趣味だったよな。」

朝礼後、唐突に赤司が言った。確かに、文具集めは、私の数少ない趣味の一つである。他の趣味は読書くらいで、なんとも地味だ。

「それがどうしたの?」

「はにわ型の指サックは、持っているか?」

はにわ型の指サック…。
博物館で買ったそれは、書類をまとめる上で使えそうだけれど、あまりにも可愛くてペンケースにしまいっぱなしだ。

「持ってるよ。もしかして、赤司も文具に興味が…!?あんまり使ってないし、2個入りだからよかったら…」

「ふふ、ミョウジがそんなにはしゃぐのは珍しいな。しかし、それを欲してるのは俺ではないんだ。」

「は、はしゃいでなんか…」

ダンッ!!!
弁明しようとした時、廊下から鈍い音が響いた。
何事かと生徒会室のドアを開けば、そこには緑の頭をした男子生徒が、すっころんでいる姿があった。

「…緑間、大丈夫かい?」

「なんっで!!こんなところにバナナの皮が落ちているのだよ!!!!」

バナナの皮…?
よく見ると廊下には、バナナの皮が落ちていた。なぜ…?とりあえず拾ってちゃんと捨てておく。

「本当にツイてないな。おは朝が、こんなにも影響のあるものだとは…。非科学的なものとはいえ、なんとも興味深い。」

「言っただろう、おは朝は絶対なのだよ!」

帝光も3年目ともなれば、彼のことはなんとなく知っている。隣のクラスだったこともあったくらいだ。
おは朝占いの、ラッキーアイテムを毎日持っている彼…緑間君は、今日は特に何も持っていない。

「…なるほど、私がラッキーアイテムを持っているかの確認だったってことか。」

「話が早いね。」

「まさか、はにわ型の指サックを持っているのか…?」

私が先ほど取り出した指サックをそっと掲げると…緑間君はわずかに目を潤ませた。まつげが長い。

「必要そうだから、一日だけ貸すよ。お気に入りだから、ちゃんと明日には返してくれるなら。」

「了解した。借りてもいいか?」

「うん。でも、指にはまる?緑間君って、手大きいよね?」

緑間君の手に置いた指サックをそっと持ち上げてはめてみる。やっぱり、手が大きい分、指も太い。見た目はすらっとしているのに。

「ん、薬指だったら大丈夫みたいだね。よし。」

手にやっていた視線を上に向けると、これでもかというほど赤くなった緑間君の顔があった。

「ち、近いのだよ」

「あ、ごめん…」

つられて赤くなっていく自分の頬は、熱い。硬い印象のある緑間君が思ったより初心だったことは、大きなギャップで、恥ずかしくなってしまう。
赤司が、ごほんと咳払いをしたおかげで、なんとか正気を取り戻した。

「副会長、ありがとう。」

「いいえ…緑間君にラッキーが訪れるように、お祈りしておくね…!」

緑間君が生徒会室を後にしたのを見送って、感じる視線を辿る。

「なに、赤司。」

「ホームルームに遅れてしまう、俺らも急ごう。」

さっきまで穴が開くくらいの視線を送ってきた癖に、背中を向けて施錠の確認をする赤司に、居心地の悪さを感じる。

「赤司、なんか怒ってる?」

「…さぁ、どうだろうね。」

…絶対怒ってるやつだ。
微笑の裏に透けて見える怒気が、逆に怖い。
どうしようか、と考えても特にいい考えが浮かぶわけでもなく。クラスの違う赤司と分かれて、赤司のことを考えさせられる一日が始まってしまった。






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